太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 スタッフブログ


2010年度富士山測候所 研究報告書(速報 その9)

氏 名:保田 浩志 Hiroshi YASUDA
所 属:独立行政法人放射線医学総合研究所

National Institute of Radiological Sciences

共同研究者氏名・所属: 

矢島 千秋・放射線医学総合研究所

鳥居 建男・日本原子力研究開発機構

鴨川 仁・東京学芸大学教育学部

徳丸 宗利・名古屋大学太陽地球環境研究所

他協力者数名

Kazuaki YAJIMA, National Institute of Radiological Sciences

Tatsuo TORII, Japan Atomic Energy Agency

Masashi KAMOGAWA, Department of Physics, Tokyo Gakugei University

Munetoshi TOKUMARU, Solar and Terrestrial Environmental Laboratory, Nagoya University

Other several collaborators

研究テーマ: 高高度宇宙線環境のリアルタイムモニタリング

Real-time Monitoring of High-Altitude Radiation Environment

研究結果:

 太陽活動の急激な変動に伴う航空機内での被ばく線量の変化を実測データに基づき正確に評価するため、我が国で最も標高の高い(大気厚の薄い)富士山頂において宇宙線をリアルタイム計測し、モデル計算との照合によって上空(10~12km)の線量を推定する手法の開発と実用化に取り組んだ。4年目となる今夏は、高エネルギーの宇宙線を粒子種ごとに弁別測定する技術の検証と、消費電力を抑えた測定系を用いた通年観測の実現を主な狙いとした。

宇宙線の測定には、独自に新規製作した粒子弁別機能を持つ複合型シンチレーション検出器を2セット、小型のシンチレーション式中性子サーベイメータ、減速材付中性子測定器(レムカウンタ)、電離箱式サーベイメータ、及びエネルギー拡張型中性子モニタを使用した。これらの測定器に、それぞれ専用データロガーや高圧電源、ノートPC、安定化電源(UPS)等を接続して観測を実施した。

測定場所には、1号庁舎2階及び3号庁舎工作室を借用し、それぞれラックを組んで装置を配備した(図1)。それぞれの場所には長距離無線LANの通信機器を設置し、御殿場市内にあるNPOの基地及び本栖湖の南にある名古屋大学富士観測所にアンテナを置き、研究代表者の勤務先(千葉市の放射線医学総合研究所)で観測データを常時モニタリングできるようにした。なお、御殿場方面の無線LAN回線は、他の研究チームのデータ通信や山頂班の連絡用にも提供した。

上記の測定装置すべてを用いた宇宙線観測は2010年7月12日から開始、8月25日の撤収時まで約44日間継続した。その間落雷などによる停止は無く、安定してデータを取得できた。得られた実測値は、大気中宇宙線強度を計算するモデル(PARMA/EXPACS)による予測値と比較し、よく一致することを確認した。

また、8月26日から、3号庁舎工作室にエネルギー拡張型中性子モニタ、専用データロガー及び長距離無線LANアンテナを設置し、フィールド用の充電型リチウムイオンバッテリー24個を接続して、通年観測を目指した連続観測を開始した。消費電力を抑えるため、システムは6時間ごとに自動で起動し通信を行うようにし、富士観測所に設置した受信用の機器及び携帯電話会社のインターネット回線を介して遠隔でデータを取得できるようにした。2010年9月末現在、順調にデータは取得できており、通年での宇宙線被ばくモニタリングの実現に道が開けた。

本研究では雷雲で発生する放射線の検出も狙ったが、今夏は有意な事象は観測されなかった。

今後は、粒子弁別機能を持つ測定装置のデータ等について入念な解析を行うとともに、通年観測データから太陽磁場強度及び上空の線量を常時推定するためのプログラムの開発に取り組む。そして、将来には、日本人の宇宙線被ばくを監視する拠点を富士山頂に構築したいと考えている。


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図1. 旧富士山測候所1号庁舎2階に設置した宇宙線観測装置(左)と

3号庁舎工作室に設置した長距離無線LAN機器と中性子測定装置(右).


Fig.1  Instruments for cosmic radiation measurements in the 1st building (left)
and those for long-distance neutron monitoring in the 3rd building (right).





英文:

We have developed cosmic radiation monitoring system in the Mount Fuji Weather Station, the highest place in Japan, to estimate cosmic radiation exposure at aviation altitude in relation to solar activity changes.

For real-time, accurate dosimetry of cosmic radiation exposure, several advanced instruments for cosmic radiation measurements were installed in the Mt. Fuji Weather Station. The data were sent via two lines of long-distance wireless LAN to NIRS (Chiba, Japan) in real time.  Measurements continued from July 12 to August 25, 2010, for about 44 days.  The measured dose rates agreed well to an estimated value by model calculations.

Also, from August 26, we started automatic monitoring of neutron dose using a extended energy neutron monitor with 24 portable batteries and a newly developed data logger having communication controlling functions.  At the end of September, the system is working successfully.

Now it is considered that a basic system for continuous cosmic-radiation monitoring at the summit of Mt.Fuji has been established.  Based on this system, we are making a program to determine solar magnetic potential and aviation doses in real time.

研究成果の発表:

1) Hiroshi Yasuda、Kazuaki Yajima: Characterization of Radiation Instruments at the Summit of Mt. Fuji. Radiat. Meas. doi:10.1016/j.radmeas.2010.06.014, 2010.

2) Kazuaki Yajima、Hiroshi Yasuda: Measurement of cosmic-neutron energy spectrum at the summit of Mt. Fuji. Radiat. Meas. doi:10.1016/j.radmeas.2010.06.032, 2010.

3) Hiroshi Yasuda, Kazuaki Yajima et al. Effective dose measured with a life size human phantom in a low Earth orbit mission. 16th Solid State Dosimetry Conference, Sydney, 2010.9.

(参考)
プロジェクト計画: 高高度宇宙線環境のリアルタイムモニタリング






2010年度富士山測候所 研究報告書(速報 その8)

氏 名:キャリン・セレグリ  Karine Sellegri
所 属:物理気象研究所 フランス国立科学研究センター LaMP, CNRS

共同研究者氏名・所属: 

松木 篤 (金沢大学 フロンティアサイエンス機構)

ジュリアン・ブーロン(物理気象研究所 フランス国立科学研究センター)

Atsushi Matsuki  (Frontier Science Organization, Kanazawa University)

Julien Boulon  (LaMP, CNRS)

研究テーマ: 富士山山頂における新粒子生成の観測

New Particle Formation Events at Mont Fuji

研究結果:

    気候変動の問題でとかく槍玉に上るのはCO2などの温室効果ガスだが、実は大気中に浮遊する目に見えない大きさの微粒子(大気エアロゾル)も太陽光を吸収、散乱することで直接気候に影響を与えている。このほかにも大気エアロゾルは水蒸気が凝結して水滴を結ぶ『雲粒の種』(=雲凝結核)としても働くので、極端な話、そもそも大気エアロゾルがなければ雲は存在できず雨も降らなくなってしまう。このように大気エアロゾルは雲との関わりを通じて間接的にも気候に大きな影響を及ぼしている。

    研究テーマにもある「新粒子生成」とは文字通り新しい粒子が生まれることで、粒子の素となるガスが集まって粒子が新しく生成する現象のことを指す。通常、都市部の汚染大気のようにもともとたくさんの粒子が存在する状態では、既存の粒子にガスが吸着されてしまい、新しい粒子は生まれず粒子の数自体に大きな変化は起きない。しかし、比較的清浄な空気で一定の条件がそろうと爆発的に小さな粒子の濃度が増えることがある。この新粒子生成メカニズムについてはまだまだ不明な点が多く、雲の種が増える重要な過程の一つとして注目されている。

    この研究は、飛行機を使った観測などにくらべ、上空の清浄な空気を継続的に計ることができる『観測タワー』としての富士山の特徴を最大限に活かし、ガスと粒子の間をとりもつ大気イオン(ナノメートルサイズ、1mmの約1/1,000,000)の濃度変化を監視することで、新粒子生成の瞬間を捉えることを目的としている。2010年度夏の観測では昨年に引き続き、日本とフランスの共同研究チームが山頂にイオンカウンターを持ち込んだ。幸い観測は順調に推移し、1カ月以上にわたって連続的なデータを得ることができた。図1は8月5日に富士山山頂で観測されたマイナスイオン濃度の変動を示す。午前9時半前後に数時間にわたる急激なイオン濃度の増加と成長が見られる。この日の山頂は非常に穏やかな晴天に包まれ、雨天時に見られるレナード効果*のイオン増加パターンとは全く異なっていた。この例は新粒子生成がまさにその場で起きていたことを示唆している。今後は気象条件、微量ガス成分、より大きな大気エアロゾル濃度との比較を通じて、新粒子生成が起きる条件のより詳しい解析を行う予定である。

    *水滴が破裂するときに大気イオンが増加する現象。滝の近くなどでマイナスイオンが多いと言われる要因。

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図1. 2010年8月5日に富士山山頂で観測された大気中マイナスイオン個数粒子径分布の時間変化



Figure1. Ion number size distribution (negatively charged) measured at the summit of Mt. Fuji

on 5 Aug 2010.



英文:

    Climate change is not just about CO2, but microscopic particles (atmospheric aerosols) also play a major role. They regulate today’s climate either by interfering with solar and terrestrial radiation, or indirectly by acting as seeds of cloud (or cloud condensation nuclei) upon which water vapor condense onto. In short, without the aerosols, there will be no cloud (or rain).

    The “new particle formation” in the title literally refers to an event by which new particles are formed in the atmosphere through condensation of precursor gases. Such gases are often adsorbed on preexisting particles (e.g. in polluted environments) and there will be no net change in the number of particles. On the other hand, explosive blooms of tiny particles have been observed in rather clean environments. The condition or mechanism that triggers the new particle formation is still not very well understood, but attracted much attention as an important pathway for increasing the number of cloud condensation nuclei.

    This project aims at capturing the exact moment of new particle formation by monitoring the concentration of atmospheric ions (nanometer sized, 1/1,000,000 of millimeter) which mediate gases and particles. Unlike airborne measurements using aircrafts, the project takes full advantage of the summit of Mt. Fuji (3,776m) as a “monitoring tower” for continuously measuring rather clean air aloft. Since last year, joint French and Japanese team has been installing an ion counter at the summit during summer season. The 2010 campaign ended in an overall success with over one month’s worth of continuous data. Figure 1 shows the variation of negatively charged ion concentration in 5 August, 2010. There was a drastic increase and growth of ions around 9:30LST lasting more than few hours. On this day, weather was fine at the summit and the ion growth pattern was completely different from that typically found during rain (Lenard effect*). This example strongly suggests that the new particle formation indeed took place at the site. We plan to compare with the meteorological parameters, trace gases and aerosol concentrations to analyze the condition of such event in more detail.

*Lenard effect: phenomenon by which atmospheric ions are formed through bursting water droplets.

研究成果の発表:

    国内外の学会等で順次解析結果を発表し、日仏チーム共同で科学雑誌での論文発表にむけた準備を進める予定。

(参考)
プロジェクト計画: 富士山山頂における新粒子生成の観測






2010年度富士山測候所 研究報告書(速報 その7)

氏 名:兼保直樹 Naoki KANEYASU
所 属:産業技術総合研究所 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology

共同研究者氏名・所属: 

片山葉子 東京農工大学

Yoko KATAYAMA Tokyo University of Agriculture and Technology

研究テーマ: 富士山頂における太陽光発電による地表オゾン観測のための予備的研究

(この研究は「富士山における排ガスフリーマイクログリッド構築の具体化に関する研究」の一部を構成する)

Preliminary study of surface ozone measurement at the summit of Mt.Fuji with a solar-powered instrument

研究結果:

   富士山頂で商用電源が使用できない夏季以外の季節を含めた通年観測のために、自立電源である太陽光発電パネルを用いた大気測定機器の運用の可能性を探るため、太陽光発電パネル(公称30W)×4枚によるオゾン計の運用実験を行った。太陽電池パネルは水平面に設置した(図1)。バッテリーには、冬季の運用を想定して南極でも使用されている耐低温モデル(サイクロンG)×2個を使用し、屋外に置いた防水ボックス内にオゾン計とともに設置した(図2)。


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図1 6t水槽上に水平設置された太陽光発電パネル      図2 6t水槽脇に置いた防水箱内に設置されたオゾン計・バッテリー・コントロールユニット




   7/21日の運用開始から8/6までは、バッテリーによる電力供給を節約するため間欠タイマーによりオゾン計の動作を毎2時間のうち1時間だけとし(1日12時間運転)としたところ、比較的好天が続いたこともあり、全期間でオゾン計は停止することなく稼働し、かつ、2時間に1回のデータであっても、オゾンの日内変動をある程度再現できることが判明した(図3)。



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図3 山頂で測定された地上オゾン濃度の時系列





   8/6~16までは、間欠タイマーを外してオゾン計を連続運転とし、どのような状況まで停止せずにオゾン計が稼働するかのテストとした。この期間、天候が比較的悪く、気象庁測定の日照時間がゼロの日が2日続くと、バッテリー電圧は充放電コントローラーの保護回路が働く11.5Vを切ることが生じ(図4)、これによりオゾン計も2日半程度停止した。

最後の8/16~23日までの期間は、充放電コントローラーのバッテリー保護回路をバイパスして、バッテリー電圧が何Vまで低下したらオゾン計が停止するかを調べるテストも兼ねた運転を行った。ところが、この期間は好天が続き、連続運転を行ってもバッテリー電圧は未明の11.8Vまでの低下で止まっており、オゾン測定に欠測は生じなかった。d6b0c27d.png

図4 オゾン計・太陽光発電パネルに接続されたバッテリーの電圧と日照時間の時系列





以上より、(1)本テストでは太陽光発電パネルの発電量に比べてバッテリーの容量が少なかったこと、(2)このため、今後地上で行う冬季のテストにはバッテリー容量を増やして非晴天時の続く条件に対する動作をテストすべきこと、(3)1/2の時間の運転でも、オゾンの日内変動はほぼ再現可能であること、などが判明した。

 (*)この研究の一部は新技術振興渡辺記念会からの受託事業として行なわれた。

英文:

Surface ozone monitoring without using commercial power supply was tested at the summit of Mt. Fuji.  An ozone monitor was operated powered by photovoltaic cell and seal batteries with several operation scenarios.  With the solar-powered system, time series of ozone concentration was successfully obtained during the summer campaign.  Based on this result, additional apparatus and the improvement of the solar power system is to be designed for constructing the year-round ozone monitoring system in the near future.

研究成果の発表:

 本研究は新たな科学的知見を取得することを目的としたものではないため、現在のところ学会での発表予定はない。

(参考)
関連プロジェクト:富士山頂における排ガスフリーマイクログリッド構築の具体化に関する研究
関連ブログ:太陽光パネルが取り付けられました。





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