太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 オフィシャルブログ

受賞
 大会長のPovinec教授からENVIRAawardを受ける廣瀬勝己・研究部長

2023年9月17-22日にスペイン、セビリア行われたEnvira2023(第7回環境放射能に関する国際集会)で、本NPOの富士山環境研究センターの廣瀬勝己・第一研究部長がENVIRA2023awardを受賞しました!

会議タイトル

「ENVIRA2023は約300名の研究者が参加した大きな学会です。会議会長はコメニウス大学のPovinec教授で副会長はセビリア大学のGarcia-Leon教授が務めました。

この国際会議は、モナコで開催された海洋放射能汚染に関連した国際会議が始まりで、隔年で今回が7回目となります。特に、特に今回の会議では組織委員会の好意により、昨年急逝した筑波大学の青山道夫教授を追悼した特別セッションが設けられました。故青山教授は気象研究所の後輩でもあり多くの研究を共同で行ったこともあり感慨深いものがありました。」

「セビリアに行く前は、現地は夏には気温40度以上を記録している等の新聞報道で、熱さに危惧をしていましたが、実際には30度以下で快適な気候でした。歴史のある街でイスラムの文化の残存もあり、観光も含め楽しむことができました。ただし、スペインではディナーが夜9時から始まるので日本での食生活とは異なり大変でした。なお、この会議で私の研究が世界で認められたことは大変光栄に存じています。」

受賞講演のタイトルは:
Studies of behaviors of plutonium and Cs-137 in atmosphere and ocean  (プルトニウムとセシウム-137の大気および海洋における挙動に課する研究)で、
「過去50年近くに亘る環境放射能研究で大気・海洋の人類起源のプルトニウムやCs-137の分布や時間変動を明らかにすることにより、海洋での物質循環のトレーサーとしてプルトニウムやCs-137の優位性を明らかにした。
研究を進めるにあたり、基礎科学として物理や化学の知識が、環境研究でも極めて重要であり有効であると共に、観測された環境放射能データは唯一無二で、人類の遺産でありデータベースとして保存され有効に活用されるべきであるという立場であることを明確にした。
同時に観測値の時間的・空間的変化から重要な知見が得られるという研究の考え方を明らかにした。研究内容は、化学的色彩の濃い海水中のプルトニウムの化学形の研究から、物理に基礎がある日本海のCs-137を用いた鉛直拡散の研究におよび、新しいパラメータを導入することで環境中の物質の循環を理解を促進することができた。
また、福島第一原子力発電所事故に際しては、日本の環境放射能モニタリングのデータをいち早く世界に発信して、福島事故に伴う環境放射能汚染に実態を明らかにした。」
以上が廣瀬部長の報告です。

この分野での世界的な権威である廣瀬部長の講演は、長年の日本の環境放射能研究の集大成ともいえるもので、豊富で示唆に富むものです。大気中の問題を中心にスライドを少しご紹介すると:
人起源の核種

大気中の人為起源の放射性核種は、成層圏-対流圏交換、チェルノブイリ事故、福島第一原発事故によるフォールアウトが中心で、その濃度の時間変化は一次の速度論に近似され、核実験の規模など事象の大きさに関係していると思われます。

人為起源の核種の行動

大気中での人為的放射性核種の動きを成層圏フォールアウトと対流圏フォールアウトに分けて示します。

1958-2007の137Csとプルトニウムの降下量

1958年から2007年までの、Cs-137およびプルトニウム(Pu)の月間沈着量の変動を上の図に示します。このデータは世界で最長の観測記録です。

プルトニウムの北半球成層圏と対流圏の分布

北半球の成層圏と表層大気中の中国核実験に由来するPu濃度の時間変化を上の図に示します。
 
Puの見かけの半減期

核実験によってもたらされたPuの半減期はおよそ1年で、地表大気のPu濃度変化は成層圏のPu濃度変化に従って減少します。
チェルノブイリ原発事故期限のPuも日本の大気で検出されました。

Cs137(2011-2022)

2011年から2022年までの福島第一原発事故由来の双葉町、ひたちなか市、東京のCs-137濃度の変遷を示します。

再浮遊

大気中のPu沈着速度は、1990年以降、黄砂などのアジアダストの影響を受けていることがわかりました。

福島由来137Cs

福島第一原発事故由来のCs-137沈着量の日本各地の沈着量の事故後の変動を示します。

富士山環境研究センターに関係ある記事ということで、海洋中のCs-137やPuの詳細な研究内容は省略します。


全体の纏めとして。
プルトニウム同位体(Pu-238, Pu-239, Pu-240, Pu-241、それぞれ半減期が異なる)は、大気科学や海洋科学の研究に非常に有用なトレーサーです。
従来、プルトニウムの分析は、大容量の試料と化学分離が必要で、装置が比較的安価なアルファ分光分析によって行われてきました。しかし、ICP-MSの開発と化学分離技術の開発により、少ない試料で多くのデータが得られるようになりました。
環境中のプルトニウムは、物理的なプロセスと同様に生物地球化学的なプロセスにも支配されています。そのため、プルトニウムは化学的な知識だけでなく、物理的な知識も必要とされます。このように、プルトニウムは環境放射能調査において最も困難なターゲットの一つです。
また、複数の放射性核種の観測は重要であります(例:Cs-137)

以上は講演の一部ですが、詳しくは、廣瀬部長の講演や論文に当たっていただけるとよいと思います。
(広報委員会)


認定NPO法人富士山測候所を活用する会とは


2004年に無人化され、いずれ取り壊しの運命にあった旧富士山測候所。
富士山測候所を活用する会は、この施設を国から借り受け研究・教育の拠点にしようという構想で、2005年に大気化学や高所医学などの研究者が主体となって立ち上げたNPO法人です。

また
富士山頂という厳しい環境の中、その修理費・維持費や、運営費など
年間3000万円という莫大なコストが掛かるのです。

しかしながら、資金面に関しては、
公的補助もなく研究利用費だけで運営しております。

そこで、皆様からご支援、会員になっていただき未来へ
つなぐ研究の手助けをどうぞよろしくお願いいたします。

本NPOは、認定NPO法人(認定NPO法人は全NPOの2%しかない)です。
ご寄付に関しては、控除もありますので詳しくはウェブサイトなどでご確認ください。

9月にはモロッコ、10月にはアフガニスタンで大きな被害を出す地震が発生しました。これらはいずれもアルプスーヒマラヤ地震帯の地震活動の原因となるユーラシアプレートとアフリカプレートの衝突に関係するものでした。

今回のブログでは全世界を対象とした地震観測網についてのミニ知識をお届けしたいと思います。
全世界をカバーする世界で最初の地震観測網は1960年代にアメリカにより展開されました。WWSSN (World-Wide Standardized Seismograph Network)という観測網です。これはアメリカが地震学に興味があって観測網を展開したのではなく、地下核実験の探知が目的でした。ちなみに現在は包括的核実験禁止条約により、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器の実験的爆発及び他の核爆発が禁止されています。しかし残念ながら核開発を推進する国があるのも事実であり、現在も地下核実験を探知するには地震学的な手法に頼らざるを得ないのが実情です。
次の図は初期のWWSSN観測点の分布です。当時の東西冷戦構造を反映した観測点配置となっているのがおわかりになるのではないでしょうか。日本は、長野県の松代に地下核実験探知を主目的とした観測網を今でも展開しています。

スクリーンショット 2023-11-01 11.56.04
初期のWWSSN観測網(米国地質調査所(USGS)の資料に加筆)

長野県の松代という所は、地震学にとって実に特異な歴史を持っています。ここには気象庁の松代地震観測所が置かれています。今は無人化されてしまいましたが、気象庁の地震観測の拠点となっています。松代が地震観測の拠点となっているのは、実はこの場所に日本最大規模の地下壕が存在したためです。

松代google
松代地震観測所周辺の航空写真(Google Mapより)

スクリーンショット 2023-10-31 19.20.48
松代地震観測所で管理している地下壕(気象庁公表資料)

まずこの場所は、海からかなり遠い内陸に位置するという事から、日本本土への空襲が避けられなくってきた1944年、大本営の移転が決まったのです。大本営はこの松代の地下に縦横無尽にトンネルを作り、本土決戦の拠点としようとしたのです。
また、地理的な条件だけでなく、信州が「神州」につながるなど地名に品位があることや、民家が少なく機密保持がしやすいことも松代が選ばれた理由でした。日本軍は天皇陛下にもこの松代に疎開して頂くつもりであったため、現在も天皇陛下が使用するはずであった部屋が残されています。

天皇陛下の居室
天皇陛下が使用するはずであった和室(筆者撮影)


核実験探知用の群列地震観測システムは、包括的核実験禁止条約(CTBT)のもと、下図のように松代周辺の直径約10kmの円周上に6か所、円の中心付近に2か所の計8か所に設置した地震観測点からなるシステムです。

スクリーンショット 2023-10-31 18.55.36
群列地震観測システムの概要(気象庁資料)

これら観測点のデータは、専用回線等でリアルタイムに本庁へ送られ、観測点毎の地震波のわずかな到達時刻差から地震波の到来方向と距離、振幅から地震の規模が求められます。一般に、震源の位置や地震の規模を求めるには、より震源に近い、複数の観測点のデータが用いられますが、松代の群列地震観測システムは、周辺に設置した8か所の地震観測点のデータだけで、近傍で発生する微小な地震から、ある程度規模の大きな地震であれば、世界中の地震の震源を決めることができる優れたシステムで、最近では北朝鮮の核実験探知で大きな成果をあげています。

実はこの場所で、気象庁が観測所が歪み地震計を稼働(1965年8月1日)した直後の1965年8月3日から、のちに「松代群発地震」と呼ばれる日本最大の群発地震が発生したのです。この活動は目立った活動だけでも5年半続き、観測された地震総数は70万個を超えるという規模でした。この松代群発地震については、別のブログを用意したいと思います。

(文責:長尾年恭)
(広報委員会)

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2004年に無人化され、いずれ取り壊しの運命にあった旧富士山測候所。
富士山測候所を活用する会は、この施設を国から借り受け研究・教育の拠点にしようという構想で、2005年に大気化学や高所医学などの研究者が主体となって立ち上げたNPO法人です。

また
富士山頂という厳しい環境の中、その修理費・維持費や、運営費など
年間3000万円という莫大なコストが掛かるのです。

しかしながら、資金面に関しては、
公的補助もなく研究利用費だけで運営しております。

そこで、皆様からご支援、会員になっていただき未来へ
つなぐ研究の手助けをどうぞよろしくお願いいたします。

本NPOは、認定NPO法人(認定NPO法人は全NPOの2%しかない)です。
ご寄付に関しては、控除もありますので詳しくはウェブサイトなどでご確認ください。

静岡県立大学を中心とした雷研究グループでは、
Blitzortung.orgという雷位置評定ネットワークに参画しています。
観測機器は日本全国に設置していますが、富士山周辺においては落雷検知率を上げるために
測定機器を重点配備しています。

IMG_5701
 山頂に設置されているBlitzortung.org。時計の右脇のボックスが受信装置になります。

これらの落雷位置評定情報は、Blitzortung.orgからも見ることができますが、
富士山周辺については、本NPOのウェブサイトからも確認ができ、
リアルタイムで落雷情報を手軽に得ることができます。

雷グループが全国に機器を設置し始めたのが2018年からであり、
現在、観測地点が充実したため、落雷が場所ごとにどの程度の効率で検知できているか
評価し、論文にまとめました。

Kamogawa M, Suzuki T, Fujiwara H, Narita T, Wanke E, Murata K, Nagao T, Kodama T, Izutsu J, Matsuki A, Ting N., and Minamoto Y, Characteristics of the Blitzortung.org Lightning Location Catalog in Japan. Atmosphere. (2023); 14(10):1507.

本論文が掲載されたAtmosphere誌はMDPI社の新興的学術ジャーナルで
1ヶ月130~200本ほどの論文が1号分として掲載されています。
今回、我々のこのBlitzortung論文は、10月号の表紙論文として紹介されました。

[Atmosphere] Issue Cover - Vol. 14, Iss. 10 - atmosphere-2583905
 表紙の写真は、山頂班・山本季生さん(故人)が山頂から撮影した落雷にしました。

本NPOとして、雷グループの活動が広く紹介されるということで嬉しく思っています。
(文責:鴨川仁)

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2004年に無人化され、いずれ取り壊しの運命にあった旧富士山測候所。
富士山測候所を活用する会は、この施設を国から借り受け研究・教育の拠点にしようという構想で、2005年に大気化学や高所医学などの研究者が主体となって立ち上げたNPO法人です。

また
富士山頂という厳しい環境の中、その修理費・維持費や、運営費など
年間3000万円という莫大なコストが掛かるのです。

しかしながら、資金面に関しては、
公的補助もなく研究利用費だけで運営しております。

そこで、皆様からご支援、会員になっていただき未来へ
つなぐ研究の手助けをどうぞよろしくお願いいたします。

本NPOは、認定NPO法人(認定NPO法人は全NPOの2%しかない)です。
ご寄付に関しては、控除もありますので詳しくはウェブサイトなどでご確認ください。


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