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 8月5日(月)静岡新聞朝刊1面

富士山頂の旧測候所、活用着々 夏期研究最多へ、運営に好影響
3日午後、旧測候所の一室。山頂に到着したばかりの被験者に機器を取り付け、血液中の酸素濃度や心拍数を測定した上で、歩行時の体幹や骨盤の揺れ具合を調べるテストが行われた。日本登山医学会理事の井出里香医師と鹿屋体育大による高所医学・高所順応の共同研究で、今夏は滑落を引き起こす登山中のふらつきと急性高山病や疲労との相関性などを検証している。(以下省略)

ー8月5日(月)静岡新聞朝刊より  
8月5日、静岡新聞の「顔」をと云える1面トップを占めた井出先生の記事です。記事は、旧測候所2号庁舎で被験者と研究をする井出先生の写真とともに掲載されました。

耳鼻咽喉科が専門の井出先生は、急性高山病の症状であるめまいふらつきの原因について、登山中の滑落事故との関係に着目して長年、日本の最高峰である富士山頂で研究を続け、下山時に事故が多いことの原因の解明などを報告しています。これは、「平地の気圧の3分の2しかない低圧低酸素の環境のため、高所登山の心身への影響を調べる上では富士山が最適な研究サイト」であるためです。

「富士山は一般の観光客も数多く登る山。安全な富士登山の実現のためにも、研究成果を還元してゆく」ことを研究目的とする井出先生は、13年前にNPOが旧測候所の一部を気象庁から借用し管理運営を始めた当初から理事として参加していますが、医師で登山家としての経験から、「医学・医療委員長」として、NPO活動を支えています。

井出先生はまた、医師で登山家ということで、日本で唯一の登山医学に関する専門家の団体である日本登山医学会に所属し、その理事をされています。この学会の研究委員会は登山医学の研究をサポートするものですが、その中で現在3つのプロジェクトが進行中です。

その一つが「富士山測候所活用の推進」で、旧富士山測候所の高所医学研究・高所順応研究への活用を推進させるべく活動していますが、井出先生がそのリーダーを務めています。富士山測候所を活用する会のホームページと連携をとり、日本登山医学会のホームページから積極的に高所医学・高所順応の研究をご希望の方を募集しています。

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 日本登山医学会の研究委員会のページでは、もう来夏の研究計画の受付が始まっている

7月25日に、延べ5千人に達した富士山頂の旧測候所庁舎を利用する研究者。そのほとんどは「山」については素人で、富士山が初めて経験する高所登山となるため、ほぼ3人に一人は高山病などの症状になります。

山頂では、登山家である山頂班が判断して対応していますが、軽い症状の場合は安静や早めの下山をさせますが、重篤になると堀井先生や井出先生と連絡を取りながら、その指導の下に時には酸素吸入などの対応をしています。13年間、無事故で来られたことは、まさに「医学・医療委員会」の井出先生たちと山頂班の連携のお陰と言えます。

今年の夏季観測も中間点を過ぎました。個人情報との関係で具体的には書けませんが、既に井出先生のお世話になって事なきを得たケースもあり、「医学・医療委員会」は閉所するまで気の抜けない時間が続きます。

いつも影のサポーターとして、頑張ってこられた井出先生のご自身の山頂研究に関して今回スポットライトが当たったことを心から喜ぶとともに、今年も8月の終わりまで、無事に終わることを祈っています。

(広報委員会)

R13 富士山頂(3776m)における体幹2点歩行動揺計による歩行バランスの評価と簡易指標の検証
井出里香 (東京都立大塚病院)

平成29年度の研究ではファンクショナル・リーチテスト(FRT)は高度の上昇とともに低下し、動的バランス能力の低下を示した。主観的なふらつきも山頂で有意に高値を示していたことから、登山中のバランス機能のモニタリングや体調管理の簡易指標としてFRT、 主観的なふらつき感 (visual Analogue Scale=VAS)の有用性が示唆された。 

今年度の研究では富士山頂(3776m)における体幹2点歩行動揺計(3軸加速度・3軸角速度センサー)による歩行バランス機能とFRTおよび主観的なふらつき感による簡易評価法との相関を検証する。また歩行時のふらつきと急性高山病(AMS)の重症度との関連についても検討する。滑落事故の要因となる登山中のバランス機能のモニタリングや体調管理の簡易指標になれば、安全な登山にも貢献できるものと考えている。

(参考:登山医学関係プロジェクト2019)
■プロジェクト2019(高所医学)x