氏名: 佐藤 元
所属: 一般社団法人日本気象予報士会気象実験クラブ
テーマ:「富士山頂実験室」
結果:
気象実験クラブは、昨年度の頂上~地上の2元中継に引き続き、富士山及びもと富士山測候所を活用して、頂上と地上の出前講座会場とをインターネットで結んで、気象の実験を行った。ここでいう「実験」とは、地上で発現する現象が、気圧や密度が低い高所においていかに発現するかを実際に見ることにある。この時、地上の出前講座の会場の子供たちに地上で実験に参加してもらうのである。今回は、特に山頂と地上の2か所の会場の合計3か所を同時にインターネットで結んで同時中継することを試みた。
また、登山時、気象記録計を山小屋に設置しつつ登山し、下山時順次回収し、気象データを取得した。
2回登頂したので、以下①と②とに区別して報告する。
実験①
登山日程: 2012年7月20日~22日
天候: 霧、雨
講座: 7月22日午前09:30~11:30
地上会場: 東京都目黒区、中目黒青少年プラザ(7月22日)
登山メンバー:7名
地上スタッフ:東京会場5名
実験②
登山日程: 2012年8月02日~05日
天候: 晴れ
講座: 8月04日午後13:00~15:30
地上会場: いわき市湯本、福島パルシステム、横浜市旭区、南希望ヶ丘ケアプラザ(8月4日)
登山メンバー:7名
地上スタッフ:いわき会場:5名、横浜会場 :8名
通信システム:
下記のいずれも、音声と画像は3G回線を使用し、送受信した。
適宜携帯電話で、頂上~地上間で、状況の連絡確認を行った。
①頂上と地上の中目黒会場とをインターネットで結んだ。
②頂上と地上のいわき会場とをインターネットで結び、横浜会場へは、さらに、いわき会場~横浜会場の間のコミュニケーションがとれるよう回線網を構築し、3か所同時に画像と音声でコミュニケーションができるようにした。さらに、地上同士(いわき会場~横浜会場)を別回線でインターネットで結んだ。これは、頂上からの通信が断絶しても、地上同士のコミュニケーションが取れるようにしたものであった。
実験の結果:
浮沈子の実験では、地上と頂上とで、まったく同じ装置(器材)を用いて、気圧の相違による発現する現象の違いを、同時に相互に見ることができた。
事前に子供たちからリクエストがあった、スーパーボールの落下実験も行った。
①実験アイテム:浮沈子、スーパーボール、竜巻(地上会場のみ)
天候は良くなかったものの、通信状況は比較的安定していた。
画像、音声とも、耐えられる範囲内で送受信できた。
地上でビンの底に浮沈子を沈めて、ふたをして、封入し、頂上まで運んだ。
頂上で、ビンのふたを開けた途端、浮沈子が浮上した。予期した通りの現象(結果)となった。
また、スーパーボールの弾み具合が地上と頂上ではどうなるか 実際に行ってみたところ、実験条件(特にボールの反発面)を同じにすることができず、有意の差がでず、比較するには至らなかった。しかし、地上会場の来場者には、ほぼ満足していただけたことと思われる。
②実験アイテム:浮沈子、色つきの水(地上会場のみ)等
通信状況は、天気も良く、山頂の風景などを地上へ送ることができ、最初の30分程の間は、順調に見えたが、実験途中に突然3G回線が途切れた。時間が経過する中、回復しなかった。3地点同時中継できるべき仕組みを
構築してあったが、肝心の山頂側の回線断のため、当初考えた3地点同時中継は満足な送受信ができず、地上会場の来場者には大きな期待のあった中、落胆させてしまうこととなり、多大な迷惑をおかけすることとなった。
気象データ:
①②とも、須走口ルートの5合目(東富士山荘)、7合目(大陽館)、 8合目(江戸屋)、10合目の山小屋(扇屋)、10合目の浅間神社、及び剣ヶ峰の測候所において、気象記録計を設置した。取得したデータは、気圧、気温、湿度の3種であり、期間中1分間隔で計測記録した。目下データ解析中である。
問題提起:
実験結果②の問題は、事前に工事の予定が知らされていれば対応は十分にできたと考えられる。しかし、突然途切れたので、途切れた原因の特定に手間取った。このため、地上同士の回線の有効活用化が十分できなかった。
繁忙時期の山小屋に、気象記録計を設置させていただくことができたが、迷惑ではないか、との危惧がある。
来季へ向けて:
限られたスタッフ、器材、スキルではあるが、特に3G回線については複数の異なる通信メーカーの通信機器を持っておくことが望ましい。障害時対応のため、事前に障害対応訓練を実施しておく必要を痛感した。言わずもがなのことではあるが、早期にプロジェクトを立ち上げ、関係者の事前の十分な検討と理解が必要と考えられる。
このプロジェクトは、ボランティアで参加してくださった皆様の費用、時間、エネルギー等莫大なものによって成り立った。これに応えるべく、何とか、最小の努力で、最大の効果を上げることができないか、評価の仕方を含め、議論が必要である。
メディア:
①東京都目黒区の取材があり、翌日目黒区のWebに掲載された。
②山頂で、静岡新聞、山梨日々新聞の実況取材があり、翌日の新聞に掲載された。
謝辞:
この夏のプロジェクトを実行するに当たっては、以下の方々に大変お世話になりました。ありがとうございました。
・一般財団法人日本気象協会、
・NPO法人富士山測候所を活用する会の皆様、
・横浜国立大学教育人間科学部気象学研究室の皆様、
・日本気象予報士会サニーエンジェルスの皆様、
・日本気象予報士会気象実験クラブの皆様
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