太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 オフィシャルブログ

2013年05月


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軽快なトークのみならず、次々と魅了する放電現象の動画を示していただき、あっという間に聴衆を科学の世界へ引き込んだ。

5月26日(日)15:30から東京理科大学総合研究機構山岳大気研究部門と NPO法人富士山測候所を活用する会とが共催した特別講演会。今回は鴨川仁先生(東京学芸大)のご紹介で、北海道大学理学研究科教授の高橋幸弘先生にご講演をお願いした。演題は、「宇宙と富士山をつなぐ」。

高橋先生は、東北大学でオーロラの研究で学位をとられ、南極越冬隊隊員を経験後、成層圏にみられる高高度発光現象のいくつかのうち「エルブス」という現象を発見された。現在では、世界に冠たるグローバルな雷研究を推進するだけでなく、複数の超小型衛星の製作を同時に行い、衛星による地球観測の既成概念を打ち破るアイディアで科学革命を起こそうとされている。また、富士山の夏期観測2013では鴨川先生のグループで共同研究者として名前を連ねておられる。

講演では、高橋先生の軽快なトークのみならず、次々と魅了する放電現象の動画を示していただき、あっという間に聴衆を科学の世界へ引き込んだ。講演のはじめには、高高度での放電現象についての最先端科学の紹介のみならず、富士山ならばどういった現象を撮るのがよいのかなどの提案があり、また後半には、高橋先生が新たに開発した液晶フィルターを用いて複数の超小型衛星からの観測で富士山の山体崩壊や噴火に予測に向けた健康診断ができないかという提案もあった。

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「大気の鉛直構造」を示すスライド。対流圏、成層圏、◯◯圏といった高さに応じて、それぞれ対応する学者(学会)が違う。

興味をひいたのは「大気の鉛直構造」を示す一枚のスライド。
対流圏、成層圏、◯◯圏、××圏といった高度に応じて、それぞれ対応する学者(=学会)が地震学者、海洋物理学者、気象学者・・・と違っているという。その理由は、それぞれの学者が使っている道具(?)が異なっており、お互いに相容れないため。これでは全体を通して考えることができない・・・とも。空の上は縦(タテ)割りならぬ横(ヨコ)割りの世界である。

ひるがえって富士山測候所の夏期観測には、毎年延べ400人から500人もの研究者や学生が研究活動に参加している。大気化学の先生もいれば、放射線、雷、天文学の専門家もいる。中学高校の教師もいる。医師もいる。これだけ多くの分野の専門家が短い富士山頂の夏に集い、同じ屋根の下で研究活動に参加しているのである。

富士山測候所は、系列の垣根を越えた連携がとりやすい環境にあるといえよう。まさに、富士山測候所が新しいタイプのユニークな研究所と言われ始めている所以(ゆえん)でもある。この特長を活かせば、学際的な連携アプローチをとることで新たな知見が得られることも可能となる。異分野の先生方の間でこのような動きが活発化してきているのは、素晴らしいことではなかろうか。

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講演会では活発な質疑応答が飛び交わされた。




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学生ポスター賞を受賞した早稲田大学大河内研究室の磯部貴陽氏。手にしているのは記念に贈られたトロフィー。

5月19日から24日まで,横浜赤レンガ倉庫1号館3階ホールにて開かれた第6回霧と露の国際会議 (The Sixth International Conference on Fog, Fog Collection and Dew) で早稲田大学の磯部貴陽氏が学生ポスター賞を受賞した。

おめでとうございます。

この会議は、霧・霧水沈着・露を扱う唯一・最大の国際会議であり、世界各国の研究者間の情報交換を目的に3年おきに開催され、前回は2010年にドイツで開らかれた。大気汚染によって酸性度が高まった「酸性霧」の実態の研究成果などで、29ヶ国118名の参加がありポスター発表数は61件。

学生ポスター賞を受賞した早稲田大学大河内研究室の磯部貴陽氏の論文タイトルは、Observation of Cloud Water Chemistry in the Free Troposphere using Mt. Fuji(日本語:富士山体を用いた自由対流圏における雲水化学観測)。7年間(2006年~2012年)にわたって富士山頂(標高 3776m)で夏季に採取した雲水の化学成分・組成を、富士山南東麓および世界各地の自由対流圏高度(標高3000 m以上)に位置する山岳、大気境界層内(標高1000 m以上、2000 m以下)の山岳における雲水(霧水)と比較して富士山頂の雲水化学の特徴を明らかにし、越境大気汚染の影響評価を行ったものである。

なお、大河内博氏(早稲田大・教授)、緒方裕子氏(早稲田大・助手)、皆巳幸也氏(石川県立大・准教授)ら、富士山測候所を活用する会の主要メンバーが共著となっている。

富士山は研究の場であると同時に、素晴らしい教育の場ともなっているのである。

受賞学生:早稲田大学創造理工学研究科 地球・環境資源理工学専攻修士課程2年生
大気水圏環境化学研究室(大河内研究室) 磯部貴陽
受賞論文タイトル:Observation of Cloud Water Chemistry in the Free Troposphere using Mt. Fuji
受賞論文共著者:Takaharu ISOBE, Hiroshi OKOCHI, Hiroko OGATA, Daisuke TAHARA, Shohei MARUYAMA (Waseda Univ.), Yukiya MINAMI (Ishikawa Prefectural Univ.) 
種別:学生ポスター賞

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総会で配布された参考資料。山頂運営にはこれだけ経費がかかっていることを訴えている

第8回通常総会が、5月26日(日)神楽坂PORTA(新宿区神楽坂)において開催された。

議決権を有する会員出席15名、委任状出席57名の合計72名が出席、正会員総数113名の過半数を超え、平成24年度(2012年度)の事業報告、決算報告をはじめ、中期計画、平成25年度(2013年度)の事業計画案、活動予算案、その他の議案が提出され、すべての議案は原案通り満場一致で可決・承認された。

今年の総会には第8回にして初めて「中期計画」が議案としてあった。この背景には東京管区気象台の第3期貸付公募に応募し、平成30(2018)年までの5年間という中期の継続借り受けが決定し、その利用の大きな枠組みは固定されたことがある。一方で、当会を取り巻く環境も認定NPO法人制度の法整備、PM2.5など越境大気汚染の深刻化(・・・これはまさに、設立にあたり本NPOが予見していたものであるが)、富士山世界文化遺産登録の決定など、各方面で大きな動きを見せていることがある。

総会でも、岩坂泰信理事(名古屋大学名誉教授)からいみじくもこの関連の発言があった。
われわれを取り巻く環境の変化として世界文化遺産登録と噴火問題が上げられる。これらにはNPOとしても(正面から)顔を向けていくことが大事である。文化遺産登録に関しては、NPOが旅行会社とタイアップして、例えば「富士山で健康ツアー」などを組んで(山頂でなく)五合目まででいいから連れて行って、研究者が研究内容を発表するというような企画も考えられるのではないか。

また、大噴火の前には何らかの変化があるはずであり、これが把握できれば爆発が起きたときにどれだけ被害を減らせるか、ということにも貢献できるず。太郎坊から山頂に向かう送電線の電柱に装置か何かを取り付けておいて、危険な状態になったときに予知連に連絡するなど、大げさなものでなくてもいいから、山を安全利用している姿勢のひとつとしてもやるべきだ。富士山測候所を活用する会として組織的に考えたほうがいいのではないか。

この2つの問題は、NPOとしてはどちらかというと正面切っての対応はあまり考えていなかった。というよりは、われわれの活動にはある意味でマイナス要因であるとあえて避けてきたきらいがある。件(くだん)の理事の発言は、これらに対しても積極的に取り組むべきであるという発想であり、啓発されるところが大であった。

向う5年間の目標は設定された。その達成実現は、いつにこれからのわれわれの努力にかかっている。

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現在(2013年4月)は、過去6年間(第1期および第2期)とこれからの第3期5年間(+1夏シーズン)のちょうど中間点にあたる

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NHKテレビ「おはよう日本」より

おめでとうございます!

三浦雄一郎氏が今日の昼頃、ついにエベレスト(8848メートル)の登頂に成功したとのニュースで日本中が沸き立っている。前回、5年前(2008年5月26日)に登頂したときは76歳。これを4歳も更新し、80歳で世界最年長での快挙というのだからすごい。

三浦雄一郎氏は当NPO法人の副理事長である。前回のエベレスト登頂の後も、お忙しい中、会報誌「芙蓉の新風」Vol.3(2009年1月発行)にご執筆をいただいた。この寄稿は、富士山測候所を活用する会のホームページの「応援メッセージ」にいまも載せてある。タイトルは『富士山山頂測候所 未来の科学の世界のために』。

改めて読み返してみて驚いたのは、その時すでに「次の目標として80歳で3度目のエベレスト登頂」を目指していたということだ!快挙は一朝一夕でできたものではなかったのである。目標の設定とその実現に向けて不屈の精神力とたゆまぬ努力があったればこそであろう。

TVの番組の中で、「大事なのは頂上を決してあきらめないで、希望と勇気をもって忍耐すること」という趣旨のことを語られていた。最近、資金不足で意気消沈気味の当NPOにとっても久々の明るいビッグニュースであり、「希望を持って頑張れ」というエールでもある。

無事に下山されることを祈念しております。

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会報「芙蓉の新風」VOL.7(2009年1月発行)の三浦雄一郎氏の寄稿

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送電線に倒れかかる枯れた樹木。

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上の写真のクローズアップ。電線にかかっているのがよくわかる。


富士山測候所の電気は、山麓の太郎坊(御殿場)から送電線で送られている。標高1300m付近にある架空線の始点となる第1号柱から標高約1500m付近の第73号柱までの約4kmは架空線で、そこからさらに約7kmは地下埋設ケーブルで山頂の測候所に達する。

富士山麓の架空線は冬の間、雪や風の影響をもろに受け、毎年必ず何らかの被害が発生する。5月6日、山頂班の方が先日現地に立ち寄ったところ、第46号柱付近で今年も樹木が倒れて架空線にかかっているのを発見した。昨年倒木が見つかった第44号柱の近くである。

倒木はいずれ、測候所開所前に実施する定期点検時に伐採処理をすることになる。富士山測候所を活用する会は山頂の測候所の建物だけでなく、この送電線施設も気象庁からの借りており、その維持保守経費は借主側の負担となっている。

数年前には電柱が何本か折損し、想定外の出費を強いられた。いつ発生するかわからない災害による出費はNPOの財政に重くのしかかってくる。今年のこの程度で済んでよかったと胸をなでおろしているところである。

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世界文化遺産に登録されることになった富士山頂を望む

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