太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 オフィシャルブログ

2013年06月

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冬化粧した富士山 2012年10月19日 山梨大学 小林 拓さん 撮影


富士山が世界文化遺産に登録されました。長年の地元関係者の皆様のご努力が実ったもので、心からお祝いを申し上げます。日本の象徴として富士山が日本人の心の中に占める割合は大変大きなものがあることは言うまでもありません。富士山やその周辺の自然や景観など自然遺産としても価値のあるものが多いことは我々誰しもが感じることですが、それ以上に日本人の精神性を支えている役割の大きさが評価されたものでしょう。

本NPOの活動の中心である旧富士山測候所はその富士山の山頂にあり、長年日本の気象観測、台風による災害防止に大きな貢献をしてきた施設です。現在は本NPOを中心として、大気化学や高所医学を初めとする様々な分野の研究活動に重要な役割を果たしています。文化遺産としての富士山の価値を科学の面から高めていると言っても過言ではありません。また、本NPOでは山頂付近の登山道の安全確保やトイレの電源確保など、山頂周辺の安全や快適性の向上にも大きな役割を果たしています。

富士山の世界遺産登録に伴い、富士山をめざして集まる人の数もさらに多くなることと予想されます。旧富士山測候所は山頂をめざす人々の目標ともなるものです。その存在が文化遺産の価値を高め、安全性や快適性の確保に欠かせない役割を果たしていることを誇りに思い、富士山の世界遺産登録を皆様とご一緒にお祝いしたいと思います。

NPO富士山測候所を活用する会
理事長 畠山史郎


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29号柱付近で下から伸びた樹木が電線に接触している

夏期観測2013の計画が一昨日19日に報道各社に対してリリースされた。測候所の開所は7月16日に決まり、それに向けて登山計画書の受付も始まった。

開所までに準備しなければならない事項は多々ある。気象庁から借用している特別高圧の送電線の保守点検はそのひとつである。太郎坊から山頂まで電気を送る送電線は、測候所の研究活動を支える重要なインフラ設備であり、いわば測候所の生命線だ。先日6月17日に続き、2回目の点検が昨日20日実施された。

太郎坊から総延長4キロメートルに及ぶ架空送電線は、常に自然の脅威にさらされている。数年前には風の微振動で電線が切れたり、雪害で電柱が数本倒れた年もあった。しかし、これらの脅威のほかに、この山麓一帯では生い茂る樹木が送電線にとってはあなどれない脅威となっている。

送電線付近の樹木の枝が伸びて送電線にかかったり、枯れた樹木が倒れたりするため、毎年、開所前のこの時期に点検し、枝払いや倒木の伐採処理を行なっている。今年の点検結果、送電線の真下から伸びてきた木が大きくなり過ぎ、送電線に接触しはじめているという。しかも、その数は数十本。半端ではない。来年のこの時期には、これらの樹木の伐採は避けてとおれない状況になりそうである。当然のことながら、そのためのコストも余計にかかることになる。

富士山は、あらゆる種類の災害が待ち受けている「自然災害の宝庫」である。意外と思われるかもしれないが、送電線にとっては昨年の動物(ネズミ)と同様、植物(樹木)もまた、厄介もののひとつなのである。

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同上の場所を別の角度から撮影したもの。樹木の枝が悪魔の触手のようにも見えてくる。


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放射線研究者らで構成する「日本放射線安全管理学会」の第10回6月シンポジウムが6月13、14の両日、郡山市で開かれた。被災地福島県の現場の声を聞きながら早期復興に向けてどのような対策が有効か、どのような協力が可能かを探るために、昨年度初めて郡山市で開催され、今回は昨年にひきつづき2回目となる。

NPO法人富士山測候所を活用する会から「富士山における福島原発事故起因の放射線の測定-富士山で事故の影響は見えたか?-」と題して、鴨川先生(東京学芸大学)がポスター発表した。NPO法人富士山測候所を活用する会に所属する研究者が事故当時および事故後に観測した 放射性核種に関するデータを,他地点の調査を加えて鉛直分布の観点から整理を行ったものである。

論文よりまとめの部分を抜粋した。

福島第一原発事故によって大気中に放出された放射性核種の鉛直分布に関して整理したNPO研究者の観測データ,他の研究者や自治体の公表したデータを総合すると下記のようにまとめられる。

1) 富士山南東麓における通年観測から、福島原発事故後の比較的早い時期に,放射性雲が1300 mの高度に到達していた。
2) 富士山頂2か所で採取した積雪4層試料の精密測定,富士山を用いた空間線量率の鉛直分布観測,および夏季富士山頂における高エネルギー調査から,福島原発事故由来の放射性核種は富士山頂が位置する標高3000mを超える自由対流圏高度まで輸送されていない。これは,高度別スコリアの放射性核種濃度を行った他研究機関の観測と整合している。

以上より,福島原発由来の放射性雲は2011年3月後半に富士山を含む中部山岳域に到達したが、輸送高度は2500m以下の低高度に限られ,富士山での放射性核種の沈着は東側斜面に集中していた。このように,放射性核種の輸送挙動を解明する上で、富士山など山岳を利用した鉛直分布観測が有効である可能性がある。

標高日本一の富士山は、このような放射線の鉛直分布の観測に対して有効であることを実証できたといえる。発表を終えた直後、鴨川先生から「発表のほうですが想像以上に反響ありました。NPOの宣伝もしっかりしておきました」とのご連絡をいただいた。

最後になりましたが、本研究は一般財団法人新技術振興渡辺記念会平成24年度科学技術調査研究助成(上期)「富士山体を利用した福島原発起源の放射線核種の輸送に関する調査研究」により行われたことをご報告しておきます。

発表ポスター(写真右下の+をクリックすると拡大してご覧になれます)
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