太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 オフィシャルブログ

2013年08月


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秋の訪れを告げる山麓太郎坊のフジアザミとウラナミアカシジミ(2013.8.30 土器屋由紀子理事撮影)


測候所最終日の8月30日(金)。山頂はあいにくの強風と濃霧で大荒れとなった。

10時52分、商用電源を切断して閉所。最後のシフト勤務にあたった山頂班の4名が下山し、太郎坊で荷降ろし計量などの作業が終わって御殿場基地へ帰り着いたのは17時近くに。これで46日間の山頂活動は無事終了した。9月2日には、御殿場市内に開設していた御殿場基地事務所も撤収。富士山の4つの登山道も9月2日には冬季通行止めとなり、今年の夏のシーズンを終えた。

夏期観測が始まる直前の6月に富士山の世界遺産登録が決定。マスコミも富士山測候所を活用する会の活動に例年以上に目を向け、取材攻勢も活発化した。気象庁との5年間の第3期庁舎借受契約の初年度で当NPO法人の中期計画の1年目でもあったが、財政事情は例年以上に厳しく、観測日程は昨年より1週間ほど短縮を強いられてのスタートとなった。

終わってみれば、富士山測候所の利用者は前年比17%増の延べ427人となり、ピークの2010年に次ぐ規模となった。それだけ活動の密度が高かったことになる。特に後半の8月中旬以降は利用者が絶える日がなく、来年度に向けて既存プロジェクトの拡大や新規プロジェクト実施のための現地調査なども併行して行われた。

山頂では珍しい超高層雷放電・スプライトの撮影や、桜島噴火の影響の観測など、これまで続けてきたからこその成果も得られた。また、これまでのプロジェクトのほかに、新たな動きがでてきているのは、測候所の利用価値が高まっていることの証左でもある。大震災のあった2011年以降2年間続いていた減少傾向に歯止めをかけるとともに、来年につながる勢いの兆しを見せているのは何よりだ。

まだ、閉所したばかりで今年の総括をするのは時期尚早とは思うが、今年もいろいろな出来事があった。「山頂では不測の事態が発生するのが常」といみじくも誰かが言っていたが、この夏も例外ではなく、情報共有のあり方、作業統制のあり方などに新たな課題もでてきた。

9月には記憶も新しいうちに反省会が開かれる。来年に向けた準備の始まりでもある。

(参考)ニュースリリース2013.8.30夏期観測2013は8月30日(金)をもって終了しました








21日(水)早朝、加藤准教授(首都大学東京)からメールが飛び込んだ。SO2の観測データに桜島噴火の影響がでているらしいとの第一報である。

鹿児島市・桜島(1117㍍)で爆発的噴火があったのは、18日(日)午後4時31分。報道によれば、噴煙は火口から約5000㍍まで上昇したという。

2013年8月21日 水曜日 午前5:41

首都大学東京の加藤です。
8月20日の21時ごろから21日の3時ごろにかけてSO2(*1)濃度が上昇しており、暫定的なデータですが4ppbぐらいにまであがっています。桜島の噴火の影響を捉えているのかもしれません。CO、O3はこのときかなり低濃度で、海洋性の大気のはずです。太平洋からの空気が桜島の影響をうけて富士山に到達したのでしょうか。
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SO2濃度が8月20日の21時ごろから21日の3時ごろまで高くなっているのがわかる


加藤先生は毎夏、富士山頂でCO、O3、SO2を数年間継続して観測しておられる。観測データは無線LAN-インターネットを経由して大学で監視できるようになっており、毎日準リアルタイムでホームページ上で配信している。

10時頃、こんどはバックワードトラジェクトリーの計算結果を添付した続報が届く。

2013年8月21日 水曜日 午前10:00

8月20日21時~21日3時(JST)でのSO2
高濃度ですが、バックワードトラジェクトリー(*2)でみるとちょうど桜島のあたりを通過しており火山ガスをひっかけている可能性が高いです。(添付ファイルはUTで20日15時、JSTで21日0時のものです)昨夜のSO2高濃度ですが、バックワードトラジェクトリーから桜島の影響だと判断してよいかと思います。

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バックワードトラジェクトリーの計算結果。

このときの空気は桜島のあたりを通過して富士山頂に到達している。



まるで絵にかいたようなぴったりの結果である。
最近、名古屋大学の長田先生から土器屋理事宛に「紙つぶて」の感想(中日新聞連載中)と合わせてつぎのようなメールをいただいていたという。

ところで、今年の夏は、ヘンテコな空気の流れになっているみたいですが、富士山でのSO2やCOなど、例年とくらべてどうでしょうか?
一つは、桜島噴煙の影響があるのではないかと思いますが、いかがでしょう?
もう一つは、西日本の下界では、大陸方面から大気汚染物質がひっきりなしにやってきているようなのですが、富士山の高度ではどうでしょう?
続けてきたからこそわかる「おもしろそうな結果」が得られていることを楽しみにしております。


まさに、続けてきたからこそわかる「おもしろそうな結果」が得られたことになる。これまでに苦労してSO2を測定されたことが報われたといえよう。

それにしても、観測が本日21日で終わるのはとても残念。それとも、終了前に間に合って幸運だったというべきか。
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SO2測定は今年から3号庁舎のインレットを使用している。




(*1) SO2 二酸化硫黄(亜硫酸ガスとも言った)。人体に有害な刺激性の微量気体で、人為的には石炭燃焼など工業活動で発生するが、火山ガス、温泉などにも高濃度ふくまれる。
(*2)バックワードトラジェクトリー(後方流跡線):どこから空気が流れてきたを計算でもとめたもの。空気塊がどこから来たのかを時間をさかのぼって追跡する方法で、その場その場の風速と風向や気温などの気象データから計算される。




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2013年8月20日(火)午前5時10分の映像。カメラの方角は測候所1号庁舎から東方面を望む。

富士山測候所を活用する会では、学術研究目的のために山頂でさまざまな観測をおこなっているが、空(雲)の画像データもその一つである。

大気電気、大気化学、エアロゾルの研究にとって、雲の有無は重要な情報である。また、大気化学観測や気象観測データの精度向上をはかるためには、気象状態の画像情報が極めて有効であるからだ。

貴重な映像記録は5分間隔でサーバーにとり込み、後にデータ解析のために利用されている。今年はこの学術研究用のライブカメラの映像を7月19日からホームページでもパスワードなしで公開してきた。研究者の利便に供するためである。

このカメラも、研究観測グループの機材の撤収に伴い、明日21日午前9時には撤去されることになっている。標高3776㍍の日本最高地点のライブカメラの映像を終日ご覧いただけるのは、今日20日が最後。朝から山頂も晴れのようだ。

富士山からのライブ映像
http://npo.fuji3776.net/info/livecamera2013.html

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残暑お見舞い申し上げます

毎年、山頂から会員の方々にお送りしている残暑見舞いのはがき。毎年、これを楽しみにしておられる会員もいる。今年の写真は、標高1300㍍の太郎坊から望む早朝の富士山(2013.7.19 午前5:45撮影:土器屋由紀子理事)。ちょっぴりレトロな感じに仕上げてみた。

8月15日(木)朝、山頂郵便局から投函されたはがきは[25.8.15]の消印日付がついて、今日17日(土)の午前11時にはもう下界に配達されてきた。山頂からのスネールメール(普通の郵便)も、下りのせいか?けっこうの早さで着くものである。

さて、今年の夏期観測も残すところ、あと2週間となった。
来週からは大量の観測機材の撤収が始まる一方で、高所医学グループはこれからが本番。来年の本格参加を目指して現地調査に上がるグループもある。山頂は最後のラッシュを迎え、山頂班は息を抜けない日々がつづく。

大震災以降減少傾向が続いていた山頂利用者数も、最終的には3年前のピークに肩を並べる見込みとなっている。最後まで無事終了することを祈りたい。

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朝日小学生新聞 8月5日(月)「富士山大解剖 日本一の山でこそできる研究」と題して、富士山測候所を活用する会の活動を紹介

8月5日(月)埼玉県環境科学国際センターの米持先生から事務局にメールが届いた。
米持先生は、大河内グループ(早稲田大)に参画して、中国や韓国などと同期して数年前から富士山頂でPM2・5の観測を続けておられる大気化学の研究者である。

「本日、朝日小学生新聞のトップに富士山の研究に関する記事が出ていました。 我が家で購読していて、たまたま、朝、ひげを剃りながら見ていて気がつきました。」

この記事は先日、朝日小学生新聞の今井記者から「富士山測候所が科学の研究に役立っていることを紹介したい」と取材の申し込みがあり、土器屋理事が取材に対応。その後、さらにそれぞれの研究者に直接、電話取材をしてまとめられたようだ。朝日小学生新聞は、個人購読のほか、全国の小学校などを含め発行部数は10万部という。

記事は富士山測候所で現在行われている研究の中から6つをとりあげ、1面トップで富士山頂のイラストを中心にして、それぞれの研究を写真入りで紹介。とかく専門用語が飛び交い難しくなりがちな研究内容も、小学生新聞のプロの記者の筆にかかると以下のようになる(以下は記事からの引用)。

雷の研究

雷が発生するしくみや現象は、まだまだくわしくはわかっていません。雷の謎を知るには、雷雲の中に出かけるのが一番です。2008年から調べてきた東京学芸大学助教の鴨川仁さんは「まさに雷雲の中で観測できる貴重な場所です。雷が発生するとき、高いエネルギーをもった放射線が出る謎をしらべています」。

高山病の研究

高い山に登ると頭が痛くなったり、めまいがしたりするなどの高山病になることがあります。東京都立大塚病院・耳鼻咽喉科医長の井出里香先生は、高 山病の予防と治療について富士山で研究しています。山頂で人間の重心の揺れをはかる機械を使ってふらつき具合を調べたり=写真=、血液の中の酸素の濃さを 調べたりしています。

今井記者から送っていただいた新聞と一緒にあった礼状に、「子どもたちの知的好奇心にこたえる紙面をつくっていきたいと考えています」とあった。先日の児童向け書籍「富士山の大図鑑」(PHP出版社)にとりあげていただいたように、富士山測候所を活用する会の活動が、こうした形で子どもたちを含む幅広い年代層まで浸透させていただくのは、ありがたいことである。

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