NPO法人富士山測候所を活用する会は、東京理科大学総合研究機構山岳大気研究部門との共催で、126日(日)に東京大学小柴ホールにおいて「成果報告会」を開催しました。開催にあたっては、三井物産株式会社、公益財団法人の粟井英朗環境財団および日立環境財団の各団体からご後援をいただきました。

成果報告会は、夏期観測の研究成果や学問的知見などをもとに、富士山測候所で行われている最新の研究を知っていただくとともに、当会の活動を理解していただくことを目的に毎年1月に開催しているもので、今年が7回目。昨年夏に富士山測候所で研究観測に参加した研究者、大学生のほか、報道関係者、会員の方、一般の方など111名のご参加をいただきました。


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聴講者で埋まった小柴ホール

発表は、口頭発表9件、ポスター発表20件の計29件。大気化学分野では、深刻な社会問題としてクローズアップされているPM2.5や水銀などの越境汚染物質の観測に取り組んだ東京農工大学、滋賀県立大学の発表や、それぞれ異なる汚染物質を観測している東京農工大学、首都大学東京、早稲田大学、東京理科大学の各グループが揃って819日に発生した桜島の噴火活動に伴う噴煙の影響を捉えるのに成功していたのが注目されました。

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緒方裕子助手(早稲田大学)は桜島から富士山頂に飛来した物質により雲水が酸性化したことを実証

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永淵修教授(滋賀県立大学)は2007年から継続して富士山頂での大気中の水銀を調査、連続データの解析結果を発表

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大気電気分野では、東京学芸大学のグループが雷雲から発生する高エネルギー放射線の発生メカニズムの解明につながる事例を測定したほか、地上では困難とされる高高度における発光現象(スプライト)の撮影にも成功したことを発表。前年は送電線の配電盤へのネズミ侵入による山頂停電事故などのため殆ど観測ができなかったが、2013年は装置の開発・改良や設置場所の変更など万全の対策で観測に臨んだという。

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鴨川仁助教(東京学芸大学)は雷雲から発生する高エネルギー放射線の連続測定を行い、その発生メカニズムの解明につながる事例を捉えた

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高所医学では唯一の発表となった岡崎和伸准教授(大阪市立大学)の高所滞在時の脳血流量の変化と急性高山病の関連の研究

教育への活用としては、立教新座高校と十文字高校による「富士山はどういうところか」を探るための彼ら自身の発想を生かした理科実験の発表。次のステップとして山頂と学校で同時実験、山頂から授業を行うなどの展開を検討しているとの報告もありました。また、東京学芸大生による安価で過酷な環境下でも動作する小型測定機器(データロガー)の開発は、学校教育現場でも有用で実用可能なものを目指しており、今後毎年改良を重ねていく予定とのこと。


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円卓の上にあるのは、実際に富士山頂で理科実験に使用したタケコプター、ヘリコプター、バルーン、釣竿などなどの実験機材。

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十文字高校生は活動時間をやりくりしながら有志活動で音速と沸点に関する実験を行った

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立教新座高校生は標高差が異なる地点でデータを比べる実験結果を発表

通年での測候所の活用は、既に実績を上げている国立環境研究所の二酸化炭素の観測のほかにも、放射線医学総合研究所が放射線モニタリングで取り組み中であり、東京学芸大学が開発したデータロガーの越冬運用、静岡県東部農林事務所による食品の貯蔵試験は、今年の夏のデータの回収結果が待たれています。

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須藤雄志氏(東京学芸大学・学生)の越冬データ取得システム(データロガー)のポスター発表


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静岡県東部農林事務所による富士山頂で貯蔵した食品の変化

研究成果からわかるとおり、富士山測候所の施設は、年々空間的にも時間的にもその利用度が高まってきています。また、研究観測方法についても、7年間の試行錯誤を経た改良の積み重ねが着実に成果に結びついてきているようです。富士山測候所は、大気汚染の観測の場としては言うまでもなく、雷に関する諸現象など地上では解明できない分野の観測の場として、過酷な環境下での試験の場として、さらには大学生・高校生の科学に目を向けた人材の育成の場としても、その有用性を実証していると言えましょう。

昨年は富士山の世界遺産登録という日本中を沸き立たせた出来事があり、マスコミからも富士山測候所での研究活動に改めて注目された年でした。2011年から下降傾向にあった夏期観測の参加者が2年振りに回復したのに引き続き、今回の報告会も過去最多の参加者を得ることができました。今後、さらに開かれた研究・教育の拠点として幅広い利用ニーズに対応できるよう、開所期間の長期化や無線通信インフラの整備などにも取り組んでいく予定です。

最後になりましたが、成果報告会の運営にあたっては、夏期観測のときと同様、ボランティアの皆様にご協力をいただきましたことを感謝申し上げます。