太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 オフィシャルブログ

2018年06月

前回のブログ「宇宙誕生の歴史の倍の時間で1秒の狂い!?・・・・」の香取先生のお話の枕に「伊能忠敬の測量への言及」と書きましたが、伊能忠敬没後200年に当たる今年、いろいろな会合が開かれています。その一つの「測量協力者顕彰大会」に、たまたま出席したご縁でいただいたのがこの写真です。

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伊能忠敬研究会に、写真や情報の本NPOでの使用について問い合わせたところ、研究会事務局の戸村茂昭様から懇切なメールを頂きました。ここでその内容を含めて伊能忠敬の「富士山の測量」についてご紹介します。

戸村氏によると、「上の地図は美的な価値としては意味があっても、 伊能測量の科学的な価値の評価の点では片手落ち」だと言われる恐れがあるとのことです。(なお、この絵の頂上の位置は地図としての富士山の頂上の位置とのことです)

先日(6月6日)のNHK 総合TV 「歴史秘話ヒストリア」の中でも紹介されていましたが、伊能図には縮尺によって大図と、それを編集・縮小した中図、小図の3種類があります。

「大図」(1:36,000、214枚):山岳などは絵画風に描写されている。記号の利用は少ない。
「中図」(1:216,000、8枚) :記号が多く用いられている。
「小図」(1:432,000、3枚):   同上
(鈴木純子、「伊能図の世界」、「伊能忠敬日本列島を測る(前篇)」p30-38、伊能忠敬研究会、2018)

今回頂いた上の写真は大図の一部からのものとのことです。

「中図」によると、「大図」では分からなかった新たな2つの視点が顕著に現れていると戸村氏は指摘されます。(1)朱色の測線が富士山の周りをグルリと一周している。これは、廻り検知という方法を実践した証拠。(「廻り検知」とは、測量しながら、ぐるりとまわって最初の地点に戻った時、最初の測定値と比較して誤差を確認する方法)
 (2)富士山の頂上から沢山の方位線が放射状に描かれているという点。 これは、伊能測量の羅針として、天空は北極(緯度の羅針)としたのに対し、 地上では富士山(方位の羅針)とした証拠。
http://www.inopedia.tokyo/02dataRm/region/06/

このように、伊能測量隊にとって、広範囲の地点から見通せる高い山である富士山は方位の目安として、多くの場所から測定されています。史料「山島方位記」にもそのことが書かれております。また、高さについても、

 西倉沢村からの測定で、3732.72m、 吉原宿からの測定で、3660.00m

等の現在の値(3776m)と非常に近い値が示されていることに驚きます。

これらの値は、下図に示す原理を用いて仰角の精密な測定を行い、換算されたものです。 また、戸村氏によると「富士山の方位は頂上・剣ヶ峰一点だけでなく、「右」「中」「左」の三点迄区別した方位を測っている」とのことです。伊能測量隊の技術と、絶え間ない精度向上の努力を物語っています。

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(戸村茂昭、「富士山の高さを伊能測量ではどのように求めたのだろうか?」、伊能忠敬研究 74 号、6-8、 2014 )

伊能図についての興味は尽きませんが、伊能忠敬研究会のホームページに、富士山だけでなく日本各地の詳細なデータがありますので興味のある方は是非ご覧ください。
http://www.inopedia.tokyo/02dataRm/region/05/
http://www.inoh-ken.org/

(広報委員会)
  

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去る6月3日(日)NPO法人富士山測候所を活用する会総会後の1時間、東京大学大学院教授・理研香取量子計測研究室の香取秀俊先生をお招きし、特別講演会「時空のゆがみを見る時計」が催されました。講演会には会員のほかに、東京理科大学や東京学芸大学の学生等を含め約50名の聴衆が熱心に聞きいりました。
一般人だったら日常それほどは気にしていない時計の精度、またもっと気にしていないであろう相対性理論、それらはGPS等の測位衛星で、自分たちの時刻と位置を決定するのに共に重要な役割を果たしてくれることから香取先生の講演は始まります。

測位衛星にはセシウム原子時計が内蔵され、相対性理論(高度の違いで時間の進みが変わる)を考慮して、現代では時刻と位置を決定するのが当たり前になっています。位置を知るといえば、標高を知ることも重要なこと。「標高を測ることの面白さ」に始まるお話の枕には、伊能忠敬の地図への言及もありました。

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日常にある高精度時計の誤差はどの程度でしょうか?
高精度と言われている時計は通常年差10秒程度です。この誤差は

          
10s/year = (10 s)/(60×60×24×365 s)3x10-7(1年に10秒の狂い)

と我々にとっては非常に高い精度に思えます。
しかし、現在「秒」の定義の基本となっており、測位衛星にも内蔵されているセシウム原子時計の精度は
 ≒ 10-15 (3000万年に1秒の狂い)
となると、先ほど話をした時刻、位置決定が人工衛星からでき、相対性理論を考えるようになってくるわけです。これでも十分だと思いきや、香取先生の発明した光格子時計では
 ≒ 10-18 ( 300億年に1秒の狂い)
と宇宙誕生の歴史(138億年)の倍の時間があっても1秒しか狂わないという信じられない精度になってきます。となってくると、1秒という定義が原子時計で行われているものから、いずれはこの光格子時計がその役目を担うようになるだろうと考えられます。

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光格子時計は、ストロンチウムなどの原子をレーザー冷却による絶対0℃に近い、0.0000001 Kで冷やし、格子状になったポテンシャルにこの原子を閉じ込めこのポテンシャルにトラップされた原子の励起と脱励起の振動で高精度の振動を得ているようです。

時刻精度がここまでよいとなると日常の生活を変えるような応用をもたらすことができます。例えば、高度差を相対性理論から導出できるようになります。

同じテーブルに2台置いた測定器からのビートを共鳴させ、わずか2cmのズレなども計測できるという革新的技術、などなど。難しい概念と言葉が、香取先生のスライドを見ているとなんとなくわかったような気分になるから不思議でした。
「光格子時計でダークマターが分かるかもしれない」
「アインシュタインの相対性理論は大丈夫だろうか?」
「物理定数は本当に定数か?」
といった刺激的な言葉が飛び交い、司会の鴨川先生はじめ多くの聴衆が興奮の渦に巻き込まれました。

今年1月の「週刊朝日」で「次のノーベル賞候補はだれか?特集」に選ばれた香取先生ですが、ここまで
門外漢の人たちでもわからせてしまった圧倒的講演でした。
(広報委員会)


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6月7日読売新聞鹿児島版。「自然災害に挑む日本の先端科学 富士山頂における雷研究」と題して鴨川仁・東京学芸大学准教授への取材記事が掲載された。

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 画像をクリックし拡大してご覧ください!

これはいつも山頂で共同研究をしている音羽電機工業さんの広告入りの記事ですが、 鴨川先生のインタビューは「富士山頂で雷の研究をされていますが、どのような研究ですか」に始まり、「これまでにどういうことがわかったのですか」「地震観測・津波観測にも取り組んでいますが雷とどう関係があるのですか」など、突っ込んだ科学的な内容になっています。

いまや全国区となった富士山測候所を活用する会。
草の根の広報活動は場所も時間を選びません。全国、全世界、いつでもどこでも、富士山測候所を活用した研究の意義を訴え続けます。

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音羽電機工業さんと云えば、雷写真コンテストを行っています。夏の雷撮影なら富士山頂が絶好の場所?皆さんも富士山頂で100万円ゲットをしてみませんか。




認定NPO法人富士山測候所を活用する会は、ご存知の通り、研究者、教育関係者などに旧測候所を研究、教育の場として提供するために設立されており、すでに10年を超える実績を残しています。

今年の山頂の観測活動への参加グループ数は、活動開始当初の3倍を超えるところまできており、その活動は年々拡大し、活発になってきています。「インフラを提供すること」が活動の目的であったNPO法人から、「自ら研究・教育も行う機関」へと変身を遂げようとしています。

教育機関としての実例を示しますと、2017年度は成蹊中学・高校宮下敦教諭(現・成蹊大学理工学部教授)と地学部生徒との山頂・成蹊高校インタラクティブレクチャー、社会に向けた環境科学の最前線レクチャーYouTube動画配信など着々と実績をあげており、今年もこれらの企画は予定されています。

立教新座中学校・高校の古田豊先生(現ガリレオ工房)の長年に渡る教材開発は、2015年度笹川科学研究奨励賞など実績は外部においても評価されています。

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 2017年度成果報告会での古田先生の成果発表。データ解析した高校生5人も発表に参加

先日、日本地球惑星連合2018年大会(JpGU2018)の前日となる5月19 日に、全国の高校有志から構成される高高度発光放電現象(スプライト、エルブス、巨大ジェットなど)の研究会が、高知工科大学東京教室で開催されました。10年以上にも渡るこの研究会は、数多くの卒業生を輩出しており、開催場所が東京であったためOB・OGの参加もあり、大いに盛り上がりました。

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 静岡県立磐田南高校の斎須さんの発表。次の日のJpGU高校生ポスター発表に向けた発表でした

そのOBの一人として、富士山でのスプライト成果を元にJpGU2017で高校生によるポスター発表優秀賞を受賞した橋本恵一さん(当時静岡県立磐田南高校生。現在東京大学1年生)も参加していました。
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 研究会での橋本さんの後輩へ向けたスピーチ

その話とは別に、東京理科大学三浦和彦教授(本NPO事務局長)のJST高校生受け入れプログラムに参加し、太郎坊データでの研究成果を日本大気電気学会で発表し、国際地学オリンピックにおいても銀メダルを受賞した海城高校生の越田勇気さんも橋本さんと同じ東京大学で肩を並べて勉学に励んでいます。

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 越田さんの日本大気電気学会での発表


このように本NPOは、高等学校とは異なる新たな教育機関としての役割も果たし始めたことを示していると思います。

もうひとつご紹介したいことがあります。上記研究会には磐田南高校からもう一人、OGの伊藤有羽さんが参加していました。

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 研究会では伊藤さんも後輩へ向けてスピーチ

彼女は高校時代にエルブスの縞構造などをテーマに研究し、 JpGUにて発表しています。 また、スプライトのハローのテーマでは海外の学会でも発表し、それをきっかけに今はカナダのブリティシュ・ コロンビア大学で学んでいます。

今は大学生最後の夏休み、大好きな富士山の近くで何かがしたいと、地元の富士に戻り、お洒落な宿泊施設「ふじロッジ」の運営を始めたとのこと。

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 ふじロッジは、もともと会社の保養所だった建物を使ってオープンした民泊

彼女は、今年も何回か富士山に登るとのこと。学芸大スプライトサブチームは、 彼女がテーマとしていたエルブスのリングの縞模様を観測するプロ ジェクトを今年度から始めることもあり、彼女も観測に参加を希望しています。

こういったところの縁ができるのも「富士山」を介した人と人との繋がりと、そして、共に成長できる教育機関の一面も有するようになった「富士山測候所を活用する会」の魅力ではないでしょうか。次々と若い世代が育っていきます。
(学術科学委員長・鴨川仁)







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6月最初の日曜日は昨年に続いて、NPOにとっては忙しい一日となりました。14時からNPO法人の定時総会、15時から特別講演会があるこの日の午前中に、今年の夏の観測に参加するグループのキックオフ・ミーティングを設定しているからです。

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10時から始まるミーティングには京都や静岡からの方々を含め40名を超える夏期観測参加予定者が集まり、熱気にあふれていました。

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初めて顔を合わせるメンバーもいることから、鴨川学術科学委員長の司会で、各自の自己紹介に始まり、パワーポインを使って「2018年7月1日から8月31日までの62日間」の注意事項やらお願い事項の説明がありました。

観測日程に始まり、利用手続き、生活一般、御殿場基地(今年はまだ決まっていないのですが)、必要な連絡先、など細かい注意も含めて、1時間を超える説明でしたが、みなさん、ノートをとりながら熱心に聞き、具体的な質問もありました。


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例年のことながら、今年は特に厳しい財政事情の話もあり、PRのための写真撮影依頼、フォトコンテストなどへの協力依頼もありました。

NPOのホームページには「夏期観測2018公式サイト」のバナーも設置され、この日のミーティング資料も早速UPしてあります。そして6月4日からは関係者による山頂参加メーリングリストの運用も始まりました。

この日をもって今年の夏期観測も始まりです!過去11年、無事故で来られた「安全第一」を旨に、良い成果に向けて頑張りましょう!


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