太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 スタッフブログ

カテゴリ: 夏期観測

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 無事測候所に到着したChris Renschler (右) と Sascha Keller(左) 

今年のトライアル研究グループの Chris Renschler Buffalo大学教授(東大併任)は、共同研究者のSascha Keller さんと8月11日山の日に徒歩登山で山頂まで行き、一泊して12日に下山しました。

Integrated mehtods for modeling and sustainable management of regional natural resources and hazards (Mt. Fuji, Japan)
地域資源・ハザードのモデル化と持続可能な管理のための総合的手法の開発(富士山、日本)
というタイトルで、今年は富士山頂で事前調査(トライアル利用)のための登山でした。東大農学部の西村拓教授と共同研究です。

先日、このブログで紹介した国際化に向けて英文ホームページを一新しましたが、早速の利用者で張り切って対応しました。マニュアルに従って「出発時に電話を入れて下さい」とお願いしたところ、突然、当日になって、
「電話では話ににくいので、メールにしてほしい」とのこと。あいにく携帯はガラケーの担当者はパニック状態。

日本語の携帯メールも敬遠しているのに、アルファベットを一字ずつ打ち込むのはショートメールでも10分以上かかります。それでも、他にうまい方法がないとのことで、慣れない入力を始めました。

8月11日(土、山の日)
6:45、河口湖で最初のバスに乗ったという連絡
山頂へ転送して、「OK」と返信

8:35 8時に5合目を山頂へ向かって出発
山頂へ転送、「幸運を祈る」と返信

入力に苦戦していると、Saschaから、パソコンンへemailが入り、「携帯メールが不調なのでこちらに切り替える」とのこと、これですっかり連絡が楽になりました。(このメールは山頂班や東京事務局へも入るようになりました)

10:13 7合目、2790mにいる。
8合目あたりで連絡くださいと入れました。

12:23 携帯メールに、いま8合目、登り続けていると。
返信はe-mailから送りました。

14:13 吉田口山頂に到着、30分休憩して測候所へ向かうとのメール
「おめでとう!」と返信して山頂へ転送。
岩崎班長から「測候所の玄関に着いたら山頂班携帯に電話するように」とチャットが入り、それを伝えました。

15:32 山頂班に連絡するようにメールを入れたところ、15:50 測候所の前にいる。写真を撮って5分後に連絡するとのこと、トップの写真が山頂班から送られて登山終了。
1時間ほど仮眠して美しい夕日に備えるとのメールで、無事本日のサポート終了でした。

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 8月11日の夕日(この夏の山頂で見た屈指の美しさと撮影者・横山班長の話です)


8月12日(日)
昨日とは打って変わって山頂は雲の中でした(これが富士山です)。
9:00 昨日のメールを再確認して、お昼に少しせかせすぎたかと反省し、お詫びと、下山については岩崎山頂班長とよく話し合うようにメールを送ったところ、「よく話しあって下山開始の時に知らせる」とのメールでした。(9:03)

11:50 須走5合目を目指して下山開始との連絡が山頂班から入りました。(12:23 Chrisからも携帯へ)
   「山頂に雲はないけど、山全体が雷雲に囲まれているので、二人が上手く抜けることを祈る」というチャットが山頂班から入りました。

12:56 8合目について温かいスープを飲んでいるとメール。ほっとして、山頂へ転送。

13:50 雷雲接近で山頂は商用電源断。昨日登山した小林喬生先生から御殿場は激しい雷との電話が山頂へ。
  (この件をメールに)

14:40 商用電源復活(これも知らせました)


15:25 砂走り5合目着とのメール。

16:49 須走5合目着。御殿場行のバスに乗った。電源が戻ってよかったとのメール。

無事、下山おめでとうメールと、二人の個人情報を捨てることをメールでしらせ、東京までの良い旅を!と打ちました。
これで何とか、初めての外国人だけの登下山サポートの任務完了でした。

(広報委員会)










 

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 1990年代の測候所(佐藤政博撮影)


1990年代まで富士山レーダーを擁して「台風の砦」であった富士山測候所は、当然のことながら、台風に襲われることが多いところです。上空の大気の動きが速いため、山頂では台風の影響は地上より数時間早く現れます。

立平良三・元気象庁長官は、富士山測候所勤務を経験された方ですが、「富士山測候所との10年」(変わる富士山測候所、春風社、2004)の中で次のように書いておられます。


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・・・・・・期待通り、富士山レーダーは南方洋上から接近する台風を、500~600kmもの遠方から監視する役割を果たしてきました。富士山のレドームは秒速100mの強風にも耐えることのできる設計でしたが、一度だけ、レドーム(レーダードーム)のフレームに取り付けられている強化プラスチック(一辺2m程度の三角形)が破損したことがあります。1966年台風26号が富士山の西側を通過した時のことです。このとき、山頂の風速計は最大風速91.0mを記録、その後壊れてしまいました。


強風はベルヌーイの定理が示すように、レドーム内の静止空気より気圧が低いため、内部の空気は破損部分から吸い出され、床に張られていた防水用のゴムシートは膨れ上がり、裂け目が生じました。雨水が裂け目から降りかかり、危険を避けるために送信を停止せざるを得ない状況にい陥りました。この時台風の中心は既に山梨県付近まで移動、ほかのレーダーに観測を引き継ぐことで富士山レーダーは任務を全うすることが出来ました。破れたプラスチックパネルはレドームの下部に取り付けられていたもので、風によってではなく、飛ばされた岩石が衝突して破れたものと推察されます。風だけなら、設計通り十分に持ちこたえたでしょう。

   ・・・・・・・・・・


その後、大型パネルに強大な風圧が直接かかり、ねじれて掛け金が外れ、内側に倒れ掛かってきました。80kgもあるパネルを5人がかりで必死に支え、重い箱や心張り棒に少しずつ置き換え、一時間ほど耐え抜きました。パネルが倒れていたら、塔内のレーダー機器や地上観測機器は水浸しになり、大損害はまぬかれなかったでしょう。・・・・ 


NPOが夏の2か月、管理運営するようになってからも、台風による影響は多く出ていますが、会報誌『芙蓉の新風』の中から、台風関連を拾ってみると:2007の開所時の台風のあと、2009年長澤先生グループが登山中止、2011年見学会見合せ、2014年7月に大型台風8号接近で一時閉所下山(生越班長)、2015年、大気化学の荷揚げと重なったり、ブラタモリの撮影がぎりぎりだったり、2016年は7.8でブルが断念して下山(大河内研、8.21)など。

これらは、山頂班の岩崎班長が「通常業務の範囲です」といわれるものがほとんどですが、今年はどうやら、それ以上の「当たり年」のような予感があります。前回の台風12号は東から西へ動く異例のコースをとり、仮設庁舎の雪囲いにも被害をもたらしましたが、今回の様子は(岩崎班長のチャットによると)

徐々に風が強まっています。風が前回と同じNNEなので、雪囲いが無くなった所からの吹込みが強く、仮設(庁舎)ー4号(庁舎)間の連結部分が脆弱で、危険だったので応急処置をしていました。
相変わらず風圧でドアの開け閉めが大変です。酔っぱらっている訳では無いのですが、小刻みに仮設が揺れています。(笑)長い1日になりそうです。まあ、いつものことですが、気持ちよくはないですね。
仮設はあちこちから風が吹き込んで結構寒いです。最近床下からも吹き上がって来ます。


とのことで、一昨日(8月7日)、研究者たちを急きょ下山させた山頂班の判断に感謝して、台風13号が12号で傷んだ仮設庁舎を吹き飛ばさないことを祈って長い一日が過ぎました。何とか無事にやり過ごしてほっとしていますが、南海上には台風14号が発生したとか・・・心配の種はつきません。

(広報委員会)




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 東京学芸大学が雷観測のために1号庁舎屋根に設置している大気電場計

今夏から、山頂のさまざまな観測データがホームページ上でリアルタイムで見れるようになりました。2年前から公開している二酸化硫黄(SO2)に加えて、雷・雷雲(大気電場)、一酸化炭素(CO)、オゾン(O3)などの観測データが新たにリアルタイムで配信されるようになりました。

リアルタイムデータの「見える化」により、研究者は測定器の動作状態を容易に知ることができるだけでなく、一般の方にもそのデータの恩恵があります。例えば、大気電場のデータは雷雲による静電気によって山頂での雷活動を知ることができます。

雷観測を行っている東京学芸大学・鴨川准教授は今夏からデータの公開を始めました。
今朝、関係者で交わしたチャットをご紹介しましょう。

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この緑色とバラ色の丸い図やそれぞれのグラフは何を示しているのでしょう?
上段は低感度の大気電場センサーのデータ(活動が活発な雷雲がくると変動する)、
下段は好感度の大気電場センサーのデータ(通常は、雲海や宇宙と大地の間の微小電場変動を示す)です。
上の図は昨日から今日にかけてのものですが、下の赤い線をよく見てください。12:00の近くに下向きの2本の線が見えるでしょうか?
今日はお昼に大気電場の変動を確認すると、確かに謎の負のパルスが2つあります。
雷放電があればこのようなパルスがみられることがありますが、それもないことは確認済み。となるとこれは人工的なもの、つまり測定器の側を人が通ったということがわかるのです。人間には衣服などのこすれることによって静電気が溜まっていますので、近くを通ると測定機が反応します。

鴨川さんが山頂班岩崎班長に問い合わせました。
誰か1号庁舎屋根に登りましたか?
台風養生(台風に備えて建物を補強する作業)でインレットを保護するため登っていました。
以上のやりとりが、鴨川さんから今日(7月27日)入ったチャットです。われわれはこのように人的要因による変動も丁寧に記録をとっており、文書化して後々のデータ解析に役に立てています。

この例が示すように、研究者は山頂班と緊密に連絡を取りながら観測を行っていますが、そもそもこの観測が始まったきっかけも、山頂で雷予報に神経を使って電源の保守を行っている岩崎山頂班長が、鴨川さんに
何か目に見えるデータがあるといいですね
と提案して、リアルタイムモニタリングの構想がふくらんだと聞いています。山頂班もここ数年、メンバーの世代交代が進んでいますが、「見える化」により、これまでの経験・ノウハウをキッチリ伝えることが可能になると期待されています。

今年は異常気象続きで雷も多いことが期待(心配)されているので、これからのデータが楽しみです。

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(広報委員会)



山頂にいると、富士山が火山であることがよくわかります
というのは、今夏も富士山測候所で活躍されている山頂班の澤田実さんです。
彼は大学時代は火山学科出身です。下の写真はインスタにも入れましたが、最近の山頂から送られた写真です。

富士山頂には火口が2つあります。

大内院

大きい方は大内院、直径600m、深さ250m位です。

小内院

もう一つは小内院、大内院の北にあり直径100m、深さ50mくらいです。

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山頂の地図です。大内院と小内院が見られるでしょうか?

澤田さんは昨年も山頂の「火山噴火の足跡」を見つけてはインスタ用の写真で送ってくださっていましたが、それを2017年11月の行われた国際シンポジウムACPM2017の会場、スライドショーの一部として流したところ、大変面白いという反響がありましたのでその部分を下に再現します。

火山噴火の足跡は多くの火山弾に見られます。まず、火山弾の定義は火口から放出された未固結のマグマが、空中あるいは水中を飛行して、表面が冷えながら着地したものをいいます。地面に衝突痕や火山弾自体が変形したり、割れたりしていますが、冷えた岩塊が飛んだ場合は投出岩塊などと呼び区別します。

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パン皮状火山弾。これも飛び散った溶岩ですが、先に固まった表面を中の柔らかい溶岩が割るため、パンの表面のようにひび割れができます。



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リボン状火山弾または溶岩流がはがれたものです。(これは典型的なものではありません)


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紡錘状火山弾
。噴火で溶岩が飛び散る時にちぎれ飛んで固まった岩塊です。

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溶岩流の流れた断面図: 火山の痕跡、上部の横に繋がっているグレーの岩の帯が一枚の溶岩流。その上下が赤くなっているのは、流出後空気に触れて酸化した部分。クリンカーといいます。(2017年、8月撮影)


なお、英文ホームページ入れたパワーポイントにも、上の写真の説明が英文で示されています。用語については澤田さんが友人の火山地質の専門家である産総研地質調査総合センターの古川竜太博士に確認してくださいました。記して御礼申し上げます。

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国際シンポジウムACPM2017の会場で流されたスライドショー


その後、澤田さんによると

小内院と大内院については、小内院は爆裂火口と思われます。
大内院は私は陥没していると考えているのですが、以前に古川氏からは爆裂火口との説も聞いており、よく分かりません。産総研の資料では、大内院よりも小内院の方が先にあったと記述があり、また、産総研の研究者の中には小内院は火口ではないのではという意見もあるようです(2016年編集富士火山地質図)。
      https://www.gsj.jp/Muse/100mt/fujisan/fuji/index.htm 

一方、ブラタモリでおなじみの小山真人著、「富士山ー大自然への道案内」(岩波新書1437)(2013年刊)によると、山頂火口の「大内院」を覆う噴出物は約2200年前の噴火で降り積もった「湯船第2スコリア」であり、小内院は「2200年前以降に起きた水蒸気爆発の火口らしい」と書かれています。つまり2200年前の山頂噴火で大内院の火口地形ができ、その後起きた水蒸気爆発で小内院ができたのでしょうか。

小内院の形成理由や小内院と大内因の形成時期については、まだわかっていないことが多いのが現状のようです。

「富士火山」はこのように興味が尽きないフィールドです。

(広報委員会)




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 故障したO3計のポンプを持参した別のポンプに交換する首都大学東京の学生

今年は、ライブカメラの多点化に加えて、微量ガスのリアルタイムデータの公表にも力を入れていますが、今回は首都大学東京の加藤俊吾准教授と学生さんの仕事をご紹介します。

加藤俊吾・准教授は2007年から、オキシダントなどの微量気体のモニタリングを行っており、そのデータは山頂の大気化学観測の基本的なものとして、12年間の観測研究に貢献しています。今年も、7月7日の霧と強風の中で最初の荷上げ、13日に調整に登って、7月14日から測定が開始され、順調にCO,O3のデータが、ホームページに(1日遅れの準リアルアイム)で公表されていました。

ところが、7月16日に、「オゾン計おかしいですよ」という連絡がはいり、加藤先生と学生は19日に急遽日帰り登山で調整しました。


その結果下の図の上の画面が下のように改善されました。

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 2018年7月18日(上)と19日のCO, O3のグラフ(下)・・・O3の測定は19日の9時から回復している

山頂の観測は、このような思いがけないトラブルが避けられません。

なお、加藤先生のグループは2015年から東京学芸大学鴨川研究室の協力を得てシステム構築を行い、SO2の10分ごとのリアルタイムデータを公開しています。

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 二酸化硫黄(SO2)リアルタイムモニタリングの画面


二酸化硫黄(SO2)ガスは、主に石炭燃焼が発生源で、汚染大気が運ばれてくると濃度が高くなります。夏の富士山頂では、SO2濃度が増加するほどの汚染大気の輸送イベントはあまりおこらないので、通常はほとんど濃度はゼロになりますが、遠方の火山噴火検知や富士山噴火の事前検知に貢献することが期待されています。

また、昨年からは、富士山頂の多くの地点でのSO2濃度の調査を行うために、移動式のガスセンサーを試作し、背負って歩く試験も始めています。

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  ポータブルのガスセンサーを山頂で準備し(上)、背負って下山しながら大気を測定(下)・・・キティちゃんの袋のなかに測器がはいっています

大気汚染の研究者として、排気ガスなど、人為起源のSO2の測定を行っていた加藤先生は、2013年の山頂のデータの中に、桜島など火山噴火の影響を発見しました。SO2は火山噴火によっても放出されますが、はっきり桜島の影響であるをすぐ判定できたのは、COや、O3を同時に測定している加藤先生だからできたことです。

一酸化炭素(CO)は化石燃料などの燃焼から放出されます。富士山頂では近くに発生源がないため、汚染大気が発生源地域から輸送されてきているときにはCOが高濃度になります。オゾン(O3)は地表に近い対流圏では汚染大気が光化学反応をすることによって生成します。これらの微量気体の相互関係や、風のデータから、桜島の影響が判定されたのです。

このような背景があったため、最初に書いたような火山ガスの検出の仕事が始まっています。測定結果にはこれからも目を離せません。

(広報委員会)




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