太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 オフィシャルブログ

 私と鴨川専務理事が長年直接の指導を受けた東京大学名誉教授(日本学士院会員)の上田誠也先生が1月19日逝去されました。93歳の大往生でした。

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 私は大学院時代から40年以上、鴨川理事も30年以上の付き合いでした。ここ20年以上は、上田先生と3人4脚で研究を続けてきました。

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2007年 イタリア・ペルージャにおけるIUGG総会にて

 上田先生の業績として、まず第一に挙げられるのがプレートテクトニクスの確立だと思います。特に顕著な業績として、プレート運動の原動力の大部分は周囲より重たいスラブが重力によって沈み込む事が支配的である事を初めて示しました(Forsyth and Uyeda, 1975)。この論文はGoogle Scholarで調べますと、1700件近くの論文で引用されています。この論文は当時博士課程の学生であったフォーサイスさんを指導し出版されたものです。

Forsyth, D. and S. Uyeda, On the relative importance of the driving forces of plate motion, Geophys. J. R. Astron. Soc., 43, 163-200, 1975.

 また、上田先生は英語の達人で、アメリカ人が書いた英語を添削する事もよく行っていました。「どうやって英語を勉強したのですか?」と聞いた事もありました。その答えは「英国留学のチャンスがあり、その前に(半年ぐらい)集中的に英語を勉強した」と仰っていました。やはり天賦の才能があったのだと思います。

 上田先生は地震学、地球熱学、地球電磁気学、さらには地質学にも造詣が深く、日本の地球科学の研究者として、最も国際的に広く認知されていた研究者でした。そのため、世界最大の地球物理学の国際団体である「国際測地学・地球物理学連合(IUGG), 1919年設立」の日本代表理事に就任されたり、4年に1回開催される総会を2003年、アジアで初めて札幌で開催する事に成功しました。そしてこの札幌大会の大会組織委員長が上田先生でした。開会式は天皇陛下・皇后陛下のご臨席もあり、大会は成功裏に開催されました。


地震予知研究開始のきっかけ

 1980年当時、上田先生はTectonophysicsという学術雑誌の編集長を努めておられました。そこで上田先生の人生を変える論文と出会う事になったのです。これがギリシャのVANグループとの出会いでした。

 当時、地電流を用いたVANグループの地震予知に関する論文が掲載判断を2年間保留されていました。その理由は「予知の結果が良すぎる」というものでした。上田先生は実際にギリシャを何度も訪問し、VANグループと議論を行ない、「結果が良すぎる事は掲載拒否の理由にあたらない」「この論文は世の中に出すべきである」という結論に達したのです。そしてそこからの約40年間は地震予知研究に全精力を費やされる事になりました。

 また、2001年には、「電磁気学的な地震予知研究を国際的に推進すべき」という固い信念のもと、IUGG内に「地震・火山に関する国際ワーキンググループ(EMSEV)」を設立させ、初代委員長に就任しました。長尾はEMSEV設立当初から事務局長(Secretary)を努め、2019年からは委員長を務めています。

 5月10日に長尾も執筆に加わった日本地震学会ニュースレターに掲載された追悼文を以下にお示しします。ニュースレターは非営利であれば、再掲可能という事ですが、日本地震学会からも正式に転載許可を頂いております。

 出典:第76巻 第NL1号 May 10, 2023, NL-1-4〜5ページ。

上田先生追悼1
上田先生追悼2

 ちなみに上田先生は88歳まで科研費を獲得されており、まさに生涯研究者を具現した研究者でした。改めてご冥福をお祈りいたします。

(文責:長尾年恭)
(広報委員会)




認定NPO法人富士山測候所を活用する会とは


2004年に無人化され、いずれ取り壊しの運命にあった旧富士山測候所。
富士山測候所を活用する会は、この施設を国から借り受け研究・教育の拠点にしようという構想で、2005年に大気化学や高所医学などの研究者が主体となって立ち上げたNPO法人です。

また
富士山頂という厳しい環境の中、その修理費・維持費や、運営費など
年間3000万円という莫大なコストが掛かるのです。

しかしながら、資金面に関しては、
公的補助もなく研究利用費だけで運営しております。

そこで、皆様からご支援、会員になっていただき未来へ
つなぐ研究の手助けをどうぞよろしくお願いいたします。

本NPOは、認定NPO法人(認定NPO法人は全NPOの2%しかない)です。
ご寄付に関しては、控除もありますので詳しくはウェブサイトなどでご確認ください。


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