太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 オフィシャルブログ

9月にはモロッコ、10月にはアフガニスタンで大きな被害を出す地震が発生しました。これらはいずれもアルプスーヒマラヤ地震帯の地震活動の原因となるユーラシアプレートとアフリカプレートの衝突に関係するものでした。

今回のブログでは全世界を対象とした地震観測網についてのミニ知識をお届けしたいと思います。
全世界をカバーする世界で最初の地震観測網は1960年代にアメリカにより展開されました。WWSSN (World-Wide Standardized Seismograph Network)という観測網です。これはアメリカが地震学に興味があって観測網を展開したのではなく、地下核実験の探知が目的でした。ちなみに現在は包括的核実験禁止条約により、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器の実験的爆発及び他の核爆発が禁止されています。しかし残念ながら核開発を推進する国があるのも事実であり、現在も地下核実験を探知するには地震学的な手法に頼らざるを得ないのが実情です。
次の図は初期のWWSSN観測点の分布です。当時の東西冷戦構造を反映した観測点配置となっているのがおわかりになるのではないでしょうか。日本は、長野県の松代に地下核実験探知を主目的とした観測網を今でも展開しています。

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初期のWWSSN観測網(米国地質調査所(USGS)の資料に加筆)

長野県の松代という所は、地震学にとって実に特異な歴史を持っています。ここには気象庁の松代地震観測所が置かれています。今は無人化されてしまいましたが、気象庁の地震観測の拠点となっています。松代が地震観測の拠点となっているのは、実はこの場所に日本最大規模の地下壕が存在したためです。

松代google
松代地震観測所周辺の航空写真(Google Mapより)

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松代地震観測所で管理している地下壕(気象庁公表資料)

まずこの場所は、海からかなり遠い内陸に位置するという事から、日本本土への空襲が避けられなくってきた1944年、大本営の移転が決まったのです。大本営はこの松代の地下に縦横無尽にトンネルを作り、本土決戦の拠点としようとしたのです。
また、地理的な条件だけでなく、信州が「神州」につながるなど地名に品位があることや、民家が少なく機密保持がしやすいことも松代が選ばれた理由でした。日本軍は天皇陛下にもこの松代に疎開して頂くつもりであったため、現在も天皇陛下が使用するはずであった部屋が残されています。

天皇陛下の居室
天皇陛下が使用するはずであった和室(筆者撮影)


核実験探知用の群列地震観測システムは、包括的核実験禁止条約(CTBT)のもと、下図のように松代周辺の直径約10kmの円周上に6か所、円の中心付近に2か所の計8か所に設置した地震観測点からなるシステムです。

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群列地震観測システムの概要(気象庁資料)

これら観測点のデータは、専用回線等でリアルタイムに本庁へ送られ、観測点毎の地震波のわずかな到達時刻差から地震波の到来方向と距離、振幅から地震の規模が求められます。一般に、震源の位置や地震の規模を求めるには、より震源に近い、複数の観測点のデータが用いられますが、松代の群列地震観測システムは、周辺に設置した8か所の地震観測点のデータだけで、近傍で発生する微小な地震から、ある程度規模の大きな地震であれば、世界中の地震の震源を決めることができる優れたシステムで、最近では北朝鮮の核実験探知で大きな成果をあげています。

実はこの場所で、気象庁が観測所が歪み地震計を稼働(1965年8月1日)した直後の1965年8月3日から、のちに「松代群発地震」と呼ばれる日本最大の群発地震が発生したのです。この活動は目立った活動だけでも5年半続き、観測された地震総数は70万個を超えるという規模でした。この松代群発地震については、別のブログを用意したいと思います。

(文責:長尾年恭)
(広報委員会)

認定NPO法人富士山測候所を活用する会とは

2004年に無人化され、いずれ取り壊しの運命にあった旧富士山測候所。
富士山測候所を活用する会は、この施設を国から借り受け研究・教育の拠点にしようという構想で、2005年に大気化学や高所医学などの研究者が主体となって立ち上げたNPO法人です。

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