最新の大気環境学会誌第59巻第2号に、入門講座「大気環境 むかし・いま」というシリーズの一部として、横田久司事務所長と土器屋由紀子理事の執筆記事が掲載されました。
入門講座「大気環境 むかし・いま」は、大気環境研究の歴史を振り返るために、大気環境に関する研究を牽引してこられた学会の名誉会員の先生方に、研究のきっかけ(経緯、歴史)、昔の観測手法や測器、観測・実験・共同研究のコツ、面白かったこと、苦労したこと、失敗談などを紹介してもらうシリーズだそうです。
記事の発行日は2024年3月10日で、偶然にも第17回成果報告会と同じ日でした。
横田事務所長の記事は「第5講 使用過程にある大型ディーゼル自動車の排出低減対策について」です。
大気環境学会誌第59巻第2号より
横田事務所長は東京都環境科学研究所で長年大型ディーゼル車の排ガス研究に取り組んでおられました。車載計測システムによる排ガス測定方法の開発や、社会を変えた「アイドリングストップ」の研究、ディーゼル車からの粒子排出を減らすDPFの研究など、その経緯や成果、さまざまな人たちの出会いや、当時大きな転換期を迎えていた大気環境学会での事務局長としての仕事などが紹介されています。
東京都環境科学研究所の大型自動車実験システム(地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターウェブサイトより)
その中にこんな記述があります。
「石原慎太郎氏が都知事に就任した直後の7月、東京都環境科学研究所に視察に訪れた際、試験に用いたDPF装置とともに、ペットボトル入りの黒煙について説明した。当時の大型ディーゼル車から1kmの走行当たり約1gの黒煙が排出されていることを話すと、非常に驚かれた様子であった。このペットボトルは、知事が随所で見せていたのを覚えている方も多いだろう」。
2022/2/3 毎日新聞ウェブサイトより
この「黒煙入りペットボトル」を使った石原元都知事の記者会見は、首都圏でのディーゼル車排ガス規制のきっかけとして、日本の大気環境史で後世に伝えられるであろう1シーンです。日本の大気環境学の黎明期(1970年)から今日に至るまで、首都圏の大気環境の改善に尽力をされてきた横田事務所長の一面を知ることができる記事です。
土器屋理事の記事は「第4講 大気環境研究(富士山頂の大気化学)への長い曲がりくねった道」です。
土器屋理事といえば大気化学研究者というイメージですが、元々は農芸化学(東京大学)の出身でした。そこから分析化学(東京大学、米国商務省標準局)、地球化学(気象研究所、気象大学校)と分野を越えた転職を経て、海洋や富士山等でのフィールドサイエンス(気象大学校、東京農工大学、江戸川大学)にたどり着いたという経緯が書いてあります。
全く違う分野を経験した土器屋理事ならではの苦労や発見がエピソードを交えて紹介されています。土壌肥料学(農学部)と地球化学(理学部)の違いをまとめた表があり、ここまで考え方のスケールや方向性が違うのか!と改めて驚く内容です。異なる学問分野(研究室文化)に身を移すというのは、外国どころか違う惑星で暮らし始めるくらいの感覚かもしれない…と想像してしまいました。

気象庁の観測船、旧凌風丸
記事の中に「研究費は、自由のない2000万円より自由な20万円」という言葉がありました。なんとなくですが、富士山に集まる研究者には「自由な20万」の方が好きなタイプが多いのではないでしょうか。自由なフィールドサイエンスを富士山で体現されてきた土器屋理事の、そこに至るまでの道のりを知ることができる記事です。
本NPOの二人による執筆記事の紹介でした。大気環境学会会員の方はぜひご一読ください。また、会員でないけれど読みたいという方は、広報委員宛てにご連絡ください。あるいは、著者本人にご連絡くださればきっと読ませてくれるはずです。
(広報委員・村田浩太郎)
土器屋由紀子、大気環境学会誌 59 (2), A73-A78 (2024). DOI: 10.11298/taiki.59.A73
横田久司、大気環境学会誌 59 (2), A79-A85 (2024). DOI: 10.11298/taiki.59.A79
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