氏名: 野口いづみ (Izumi NOGUCHI)
所属: 鶴見大学歯学部歯科麻酔学教室
共同研究者氏名・所属:
研究テーマ:
富士山山頂における低酸素症に及ぼす 高濃度酸素溶存水の効果
研究目的:
低圧低酸素環境である 富士山山頂において、 40ppmの高濃度の溶存酸素を含む酸素水(Wox,、エスポア社製)が 低酸素症に及ぼす効果について評価する。
方法:
(対象)
健康成人 9名 (男性 6名 女性3名)
年齢 38~ 72歳 (54.4±10.7歳)
体重 45~ 80kg (60.6±11.9kg)
身長 156~180cm (167±11.1cm)
BMI 18.5~24.2kg/m2(21.4±1.8kg/m2 )
(プロトコール)
富士山山頂測候所で15分間の安静後、 高濃度酸素溶存水500mlを10分以内で 飲用。その後、45分間安静を維持。 60分間次の項目を測定。 脈拍数と 動脈血酸素飽和度(SpO2)( 使用機:パルソックス300i(コニカミノルタ社製))、 組織内酸素飽和度(StO2)
(使用機:アステム (アステム社製))。統計検討は 設定時間ごとに10秒間の数値を検討対象 とし、Student’s t-test(危険率5%未満)を行った。
結果:
1. 脈拍数は飲用開始15分後から35分後(50分値) まで減少した。5分値に対する平均値の最大の 減少は45分値でみられ、マイナス3.6回/分であった(左上図)。
2.SpO2は飲用開始5分後(20分値)から 15分後(30分値)まで上昇し、 30分後(45分値)から 35分後(50分値)で低下した。5分値に対する平均値の最大の上昇は20分値でみられ、プラス2.2%であった(右上図)。
3.StO2は飲用開始15分後(30分値)から 測定終了の45分後(60分値)まで上昇した。 5分値に対する平均値の最大の上昇は40分値でみられ、+1.0%であった(左下図)。
4.SpO2の上昇は飲用開始直後から生じるが、 StO2の上昇はそれよりも遅く生じ、長く 持続する傾向がみられた(右下図)。
考察:
高濃度酸素溶存水によってSpO2とStO2が上昇し、低酸素症が改善される可能性が示された。
SpO2は飲用開始直後に一過性に上昇し、StO2は遅れて上昇するが、これは組織に分布するのに時間を要するためと思われる。 脈拍数の減少は安静による影響があると思われる。
500mlの高濃度酸素溶存水に含まれる酸素の量は14mlと算出される。50kg体重のヒトの消費する酸素の量は250ml/分であり、酸素は3.6秒で消費されてしまうことになる。SpO2とStO2の上昇がそれよりも持続した理由は不明である。消化器系から吸収される酸素には、呼吸器系から吸収される酸素とは別の機序が作用する可能性があり、今後の検討が必要と思われる。
そのほかに、今後検討されるテーマとして、高濃度溶存酸素水の有効な飲用量と飲用方法、 SpO2とStO2の動態の相違などがあげられる。また、今回は験者と被験者の双方に高濃度酸素水を飲用していることが明らかにされていたが、今後、 二重盲検法による研究プログラムが必要であろう。
結語:
高濃度酸素溶存水によって低酸素症が改善される可能性が示された。