太郎坊のそよ風

認定NPO法人 富士山測候所を活用する会 オフィシャルブログ

2014年08月

8月11日から15日まで、コロラド州 Steamboat Springs で2014・ACPシンポジウム(山岳の大気化学・物理シンポジウム)が開催され、NPOからは三浦和彦事務局長と土器屋由紀子理事が出席しました。今日から2回にわたり、そのレポートを掲載いたします。

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SPLのあたりには高山植物のお花畑

2014・ACPシンポジウムの初日のハイライトはこの見学でした。日本語にすると「嵐が丘実験室」とでもなるのでしょうか?3220mの高さとこの名前から、寒さ対策万全で臨んだのですが、幸いお天気が良くて雨具の出番はありませんでした。シンポジウム会場の Sheraton Steamboat Resort は海抜2000m付近で、有名なスキーリゾートで、夏でもリフトは3000m付近まで動いています。しかし、見学者は、主催者たちが運転する8~10人乗りの四輪駆動車に分乗して、山頂まで1時間程度で到着。

三浦先生と私が乗ったのは、このシンポジウムの運営委員長 Gannet Haller 博士 の運転する車でした。リフトが終わるあたりから険しくなる山道を実にパワフルな運転で到着時には拍手が起こりました。剣ヶ峯よりはぐっと穏やかな Storm Peak は美しい山野草に囲まれた丘でSPLは木造2階建てのしっかりした研究施設です。

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Storm Peak Laboratory入口

2階から屋上に上る階段に展示されている歴史のパネルによると、1979年にコロラド州立大学(CSU)の人工降雪(Cloud Seeding)のための施設として始まり、スキー場との連携で発展してきたこの施設は1989年にCSUから砂漠研究所(DRI)の大気科学部門(Division of Atmospheric Sciences)の管轄に移行しています。

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3回の移設を経て現在の場所に1995年に建設され、2006年にはGannetが所長(Lab. Director)に任命されています。2009年のトイレ宿泊施設の拡充などに加えて、2010年にはNSFの特別グラントによってクリーンルームなどを含む化学実験室やサイバーインフラの充実が行われ、現在の素晴らしい施設になっているとのことです。1階の化学ラボ、計測ラボを見学して、2階のラボと宿泊施設を見て、屋上に案内されました。

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(左上)化学実験室を説明するIan McCubbin, Site Manager、(右上)測定室の一部、(下)霧採取用のメッシュを説明するGannet、左はクリーンベンチ、後ろは観測準備室

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(左)屋上空気取り入れ口、(右上)屋上、(右下)屋上には重い物器具を持ち上げるための小さいクレーンも

私たち富士山の研究者にとっては、余裕を持って使える十分なインレット、観測機器、測定器、滞在施設など、何をとっても垂涎の的です。その上、スキーリゾートであることによって年間を通して通電ができ、アプローチも楽なことも素晴らしいメリットです。

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(上)施設の真ん中には広いキッチン、(左下)宿泊用3段ベット、(右下)1階にはトイレが2つ

2時間程度の見学でしたが、充実した施設とそのデータに圧倒されて山を下りました。復路は別の人が運転して、リフトの上まで連れて行ってもらいリフトで下山しました。リフトは下りが無料とのこと。見学者にお金を使わせないような配慮がされていたのでした。500m以上の高度差を下るリフトからロッキーの山々を展望できて圧巻でした。

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下りのリフトからの眺め

シンポジウムは次の日から始まりましたが、参加者の多くが「すごい」「うらやましい」を連発していました。観測という地味な仕事にこれだけの潤沢な資金が使われるこの国の豊かさと、若い女性がそのトップで活躍している現状をしみじみうらやましく思いました。

現在NHKの土曜ドラマで進行中の「芙蓉の人」は明治28年に私財を投じて山頂に観測所を作って、山岳観測の有用性を自ら証明した野中至とそれを助けた千代子夫人の感動的な物語ですが、気象庁が無人化した後の私たちNPOの富士山頂測候所の維持管理も、三井物産環境基金などの民間助成金だのみで、若い研究者たちは自腹を切って観測をしている実情と比べてしまいました。GNP世界第3位になったわが国の観測研究が若い人たちの熱意だけに任されている現状について国際学会では肩身の狭いものがありました。(その2に続く)

(土器屋由紀子記)


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7月14日付の山梨日々新聞で紹介された富士山頂のライブカメラ

7月初から富士山測候所1号庁舎の屋根の上にとりつけた一対のWebカメラ。学術研究目的で設置しているものである。今年も夜間に山頂落雷の瞬間の映像を記録したり山頂での日照時間の検証に役に立てたりと画像データの威力を遺憾なく発揮している。

実は日本一高所のこのライブカメラは、4年前から夏期限定で山頂に設置している。以前は夏期観測に参加する研究者にだけにパスワード付きで利用に供していたが、学術利用だけではもったいないということで今年から本格的に一般公開に踏み切った。

7月15日の使用開始にあたっては、報道関係者にニュースリリース。山梨日日新聞さんが取り上げてくれ、この記事を見た環境省の「富士登山オフィシャルサイト」からリンクの申し出があり、さらに富士山のライブカメラ関係サイトがつぎつぎとリンクをはってくれた。何回もとりあげてくれるブログもあり、一気にブレイクした感がある。

普段はせいぜい20から30のホームページの訪問者数が、登山シーズンの本格化とともに連日100超に。富士山頂のライブカメラが登山者だけでなく一般にも広く定着し、富士山測候所を活用する会を知っていただく方が増えてくれたら、これに越したことはない。

※なお、ライブカメラは他の研究機材同様に8月25日に撤収するため、この日をもって今シーズンの画像配信は終了します。


(参考) 富士山測候所を活用する会のライブカメラを紹介しているサイト
以下に、富士山測候所を活用する会のライブカメラにリンクをはっているサイトの一部をご紹介します。

富士登山オフィシャルサイト
環境省と静岡県、山梨県が運営する「富士登山オフィシャルサイト」は富士登山に関することは何でもありのポータルサイト。ここを経由してくる閲覧者は最も多い。来年は増加傾向にある外国人向けに英語サイトへのリンクも検討したもらいたい。
富士登山オフィシャルサイト


富士さんぽ
こちらは個人のサイト。「何も分からないところから始め、富士山についても色々と自分で情報を集めて登ったが、折角集めたその 情報を自分だけで使っていたのでは勿体無い」(管理人のプロフィールより)ということで、このサイトを開設したとのこと。登山情報が整理されていてとてもわかりやすい。
富士さんぽ - 初心者のための富士山登山ガイド

ライブカメラ一覧では「山頂ー富士山測候所」を最初に出していただいているのはうれしい。紹介文には「画質は良くありませんが、麓が雨や曇りのときに山頂の様子を確認出来ます。」とある。来年は画質向上が課題か。
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富士山山頂で気象庁により自動計測されている最高気温と最低気温、風速の数値データを①月間の日別グラフ②一日の時間別グラフにしてくれているのはありがたい。先週は山頂は暴風が吹き荒れていたというが、このグラフがそれをはっきり示している。
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あっぱれ!富士登山
実際の体験をもとにした個人運営の夏期限定富士登山ガイド。新着情報では、当サイトをたびたびとりあげていただいた。7月18日に初めて紹介していただいたときは「剣が峰からの景色がいつでも見られるのは、すごいです」とあった。
あっぱれ富士登山-夏季限定の富士登山情報サイト

あっぱれ富士登山-夏季限定の富士登山情報サイト2


富士五湖Webインデックス
富士五湖で活動するアマチュア吹奏楽団、「富士五湖ウインドオーケストラ」が提供する富士五湖観光リンク集。富士山周辺の140以上のライブカメラを網羅し、その中で測候所のライブカメラは、①「剣ヶ峯からの距離順」ではもちろん1位、②「過去7日間の人気順」でも堂々5位にはいっていました。
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富士山測候所に設置したWebカメラがとらえた夜間の落雷の瞬間 撮影時刻:2014年8月1日(金)22時33分24秒


山頂班より研究者各位

8月1日19:00より、富士山頂から北・北東方面の落雷により、雷待機開始。
22:33頃、富士山白山での落雷を目視で確認。
22:36~23:14の間、商用電源を停止し、発動発電機に切り替えました。
機材の動作確認等、宜しくお願いします。

登録 2014/8/1(金) 23:32 富士山測候所 山頂班
山頂班からサイボウズ(山頂管理のために関係者が情報共有に利用しているグループウェア)の掲示板に書き込みがあったのは、8月1日(金)の夜半。2週間後の今日8月14日(木)、山頂に登った鴨川仁・東京学芸大学のチームが、この落雷の瞬間をライブカメラが記録していることを確認した。

撮影時刻は22時33分。ちょうど山頂班が目視で落雷を確認した時刻と一致する。まるで巨大なフラッシュを焚いたように眩いばかりの明るさだ。富士山頂の雷の恐ろしさは話には聞いていたが、それにしても凄まじいエネルギーを感じさせる画像である。

山頂班にとっては、雷の発生は商用電源から発発(はつはつ)に切り替えるタイミングを見計らって緊張感を強いられる大変な時間となる。が、高所で雷を研究観測している鴨川グループにとっては、その発生チャンスが多いことは歓迎だ。先日の巨大ジェット (Gigantic Jets) の撮影成功に引きつづき、今年は実りの多い夏になりそうだ。


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1号庁舎屋根にとりつけられた一対のWebカメラ

今年の夏期観測は台風の当たり年だ。台風11号は各地に雨のみならず強風を伴い、各地に被害をもたらしたが、富士山頂も例外ではなかった。

8月11日(月)は強風のためブルの運行も中止。翌12日(火)も馬の背の下までは上がったものの、馬の背のあまりの暴風のため測候所を目の前にして登頂を断念したチームもあった。

そんな中、今朝、山頂班から送られてきたのが上の写真。ライブカメラは見事にこの台風の強風を耐え抜き、画像を送り続けた。この取付工事を担当したのは山頂班と東京学芸大学の鴨川先生・学生のチーム。はからずも工事施工技術の確かさを実証してみせてくれた。

今日13日(水)は台風一過。山頂では風もおさまり、屋外作業も朝から始まっているという。

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8月13日(水)13:20のライブカメラの画像(英語サイト)

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モスクワに出張中の鴨川仁・東京学芸大学准教授からメールでうれしいニュースが飛び込みました。
富士山頂では昨年夏に「スプライト」を撮影しましたが、今度はそれより撮影が難しいとされている「巨大ジェット」を8月6日、2回にわたりカメラで捉えることに成功しました。
今年は高高度発光現象でもなかなか見ることのできない「巨大ジェット(Gigantic Jets)」の撮影に成功いたしました。

この現象は台湾のグループによって発見されNature誌に掲載されたのみならずその号の表紙を飾った経緯があります。
Su, H. T., R. R. Hsu, A. B. Chen, Y. C. Wang, W. S. Hsiao, W. C. Lai, L. C. Lee, M. Sato, and H. Fukunishi (2003), Gigantic jets between a thundercloud and the ionosphere, Nature, 423, 974–976, doi:10.1038/nature01759.
http://www.nspo.org.tw/2008e/download/paper/200306_paper.pdf

スプライトは比較的簡単に撮影できる(はず)なのですが(とはいえ我々も2年目でやっと山頂撮影できた次第ですが)巨大ジェットはとにかく高高度発光現象のなかでもまれな現象なので、大変うれしく思います。これもひとえに、みなさま方のお力添えのおかげであり大変に感謝しております。

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●巨大ジェットに関する詳しい記事は、下記のナショナルジオグラフィックのページをご覧ください。

上へ向かう雷、“巨大ジェット”
Brian Handwerk for National Geographic News August 24, 2009
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=98355061&expand

アメリカで「巨大ジェット(gigantic JET)」と呼ばれる珍しい発光現象が撮影された。研究者によると、雲から上向きに放たれるこの電光は地面に落ちる最大級の雷と同程度のパワーがあるという。
“上下逆さま”の珍しい電光は以前にも、発光地点より90キロ上の大気圏最上層に届く様子が観測されていた。だが、ほんの数回しか機会がなかったため、電光の強さや放電現象についてはほとんど解明されていなかった。

ー鴨川 仁(東京学芸大学准教授) 

 

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