ブルガリアで開催された第4回超小型衛星国際ミッションアイデアコンテスト (4th MIC) で準優勝を受賞した東京学芸大学の東郷翔帆さん(手前)、新田英智さん(後列左)、高橋周作さん(後列右)
鴨川仁・理事(東京学芸大学准教授)から、例によって出国前のあわただしい時間を縫ってメールがあったのは、今月の17日。あと5分で23時になろうとする時間である。
「いまから東郷君と、明日から、新田君、高橋君とブルガリアの衛星設計コンクールの本選に出るため出国します。10月30日に帰国します」このときは「ブルガリアの衛星設計コンクールって何?」とあまり気にも留めないでいたのだが、一週間後の24日、ブルガリアから続報のメールが届いた。件名には「フジサットチームが衛星ミッションアイデアコンテストで準優勝」とある。
東郷翔帆さん(自然科学系鴨川仁研究室)らが第4回超小型衛星国際ミッションアイデアコンテストにて準優勝しました。
自然科学系鴨川仁研究室に所属する東郷翔帆さん、 新田英智さん、 高橋周作さん(教育学研究科理科教育専攻)が、第4回超小型衛星国際ミッションアイデアコンテスト (UNISEC-Global 主催)にて口頭発表を行い、準優勝いたしました。コ ンテスト参加チーム数は17ヵ国28 チームでした。本コンテストは重量50 kg以下の超小型・ナノ衛星利用のためのミッションのアイディア を競うコンテストで、2016年10月21日にブルガリア・ヴァルナにて、論文審査および口頭プレゼン審査が行われました。なお、鴨川仁研究室では、2012年の第2回の本コンテストに続けて準優勝となりま した。
発表論文東郷翔帆、宮田喜久子(名大)、新田英智、高橋周作、田中康平(総研大)、岡田朋大、 鈴木裕子、織原義明、鴨川仁Microsatellites observing atmospheric and space electricity for the science of serious natural disasters: A Challenge to their mitigations
にわか勉強でUNISECのウェブサイトを調べた。
大学宇宙工学コンソーシアム (University Space Engineering Consortium: 略称UNISEC) は2002年に設立されてから、宇宙工学の分野において高専・大学の実践的な教育活動を支援、促進してきた。当初の10年間は日本国内を中心に活動してきたが、2011年から国外の大学にも目を向けるようになり、国際交流活動が活発になってきた。つまり、Mission Idea Contest (MIC)は人工衛星ミッションの実現可能性までを含めたアイデアを競う発表コンテスト。主催は大学宇宙工学コンソーシアム (UNISEC)。東京学芸大学のチームは 自然災害をもたらす地震、津波、地球温暖化、ひいては雷などの諸現象を衛星による電磁気観測で捉えることで、 減災につなげられる可能性があることを示した。
代表的なUNISECの国際プログラムには①海外の大学教員にCanSatを使ったハンズオントレーニングのやり方を教えるCanSat Leader Training Program (CLTP)②超小型衛星の利用アイディアを競うMission Idea Contest for Micro / Nano Satellite Utilization (MIC) ③UNISEC活動を世界各地で展開している人たちが集うUNISEC世界大会(UNISEC-Global Meeting)がある。
(中略)
②超小型衛星ミッションアイディアコンテスト(略称MIC)は、超小型衛星の利用を考える人を増やし利用を広げることを目的としてスタートしたが、人材育成のためのプログラムとしても評価・利用されている。50㎏級の衛星のミッションのアイデアとその実現方法を提出してもらい、一次審査で絞られたファイナリストが口頭発表の場でフィージビリティやオリジナリティなどを競う。―「UNISECの国際交流について」より抜粋
具体的には①地震の先行現象②早期津波検知③地球温暖化のモニタリングと原因究明④放射線観測による雷予測の新たな手法、という4つのミッションアイデア。いずれも衛星利用ならではのスケールの大きさを感じさせる構想である。
4つのミッション(口頭発表で使用したスライドより)
新田さん、東郷さんは富士山頂で模擬衛星(Fuji-Sat)の運用実験を続けており、 宇宙での衛星観測を見越した地上観測の経験を積んでいる。一方、高橋さんも富士山頂で雷雲活動と関連したガンマ線(雷活動及び雷雲に伴う高エネルギー放射線)の観測に取り組んでおり、 宇宙と地球での現象の違いについても調べている。
高橋さん曰く、「富士山観測を通じて(失敗も含めて)得た経験・ ノウハウは、今回の衛星を設計するうえでミッション計画や観測方法の面で活かされており、重要な役割を果たしていた」という。富士山頂から宇宙へ羽ばたく快挙に拍手喝采を送りたい。
受賞した3人の富士山での研究の様子